偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「悠里?」
聞こえてきた声が理玖のものではないと気づいた途端、張り詰めていたものが一気に緩んだ。私は物陰から飛び出すと、その人影へ駆け寄る。
「部長……!」
気づけばそのまま久世部長の胸元に飛びつき、シャツをぎゅっと掴んでいた。
「す、すみません。仕事中でしたよね。こんなことで呼んじゃって……本当にすみませんでした……」
「そんなことに気を遣うな。何があった?」
「り、理玖が……家まで来てて……オートロックの中にも勝手に入ってて、それで……」
「そうか。それは……怖かったな」
その一言を聞いた瞬間、胸の奥にずっと詰まっていたものがほどけた。
そうだ。
私は、怖かったんだ。
「……はい。怖かったです」