偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「ありがとうございました。シャワーを借りたら、だいぶ落ち着きました」
「それならよかった。飯、まだだろう。一緒に食おう。簡単なものだけどな」

「え、部長が作ってくれたんですか?」
「作ったってほどじゃない。座ってて」

 言われるままダイニングテーブルへ向かうと、そこには湯気の立つパスタとサラダが二人分並べられていた。

 少し前まで何も食べる気になれなかったはずなのに、温かい料理の匂いを嗅いだ途端、急に空腹だったのを思い出す。

「おいしそう……」
「だろ。簡単で手軽にできるし、うまい。あまり料理はしないけど、これだけはよく作るんだ」

「意外です。部長、料理もできるんですね」
「パスタくらいで料理ができる認定されるならありがたいな。……で、悠里はこれだろ」

「え?」

 久世部長は少し笑いながら冷蔵庫を開けると、中から一本の缶を取り出してこちらに見せた。
 缶ビールだった。

「あ……」
「あのとき、落としてただろ。コンビニの袋から転がってたから、飲みたかったのかなって。あれはさすがにかなり振られてるだろうし、うちにあったもので悪いけど」

 言われて初めて、逃げることに必死で、買ったもののことすら忘れていたのを思い出した。

 あんな状況だったのに、久世部長は転がったビールまで見ていたらしい。

「……ありがとうございます」
「どうぞ。一人で飲むより、きっとうまいよ」

 そう言って差し出された一缶を受け取る。
 久世部長も自分の分を開け、私たちは向かい合って缶を軽く合わせた。
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