偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「お疲れ」
「……お疲れさまです」
冷たいビールを一口飲む。
「おいしい……」
「だな」
喉を通っていく冷たさに、ようやく一日が終わったような気がした。
それからフォークでパスタを巻き、一口食べる。
温かくて、おいしい。ただ、それだけだった。
「……あれ?」
不意に頬を何かが伝った気がして手を当てると、指先が濡れていた。
泣くつもりなんてなかったし、悲しいわけでもない。
それなのに、久世部長の優しさのせいで張り詰めていたものが緩み、涙が一筋だけ頬を伝っていたのだ。
「すごく……おいしいです」
「……そうか。よかった」
久世部長は、泣いている理由を聞くことも、慰めるような言葉を並べることもしなかった。
ただ、いつもと変わらない声でそう答えて、自分もまたパスタを口に運ぶ。
私も涙を拭って、もう一口パスタを食べ、それからビールを飲んだ。
今の私には、これがすごく幸せな時間に思えた。