偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「……そういうところ、無自覚?」
「え?」
不意に言われて瞬きをすると、慧さんは少し困ったように苦笑した。
「こういうとき、そんなふうにじっと見つめられると、キスしてしまいそうになるからやめておいたほうがいい」
「キ、キスって……!」
思わず叫びそうになる――というより、完全に叫んでしまった。
今、部長がキスって言いましたけど!
あまりにも会社での久世部長からかけ離れた単語に、私は驚いて両手でカップを握り締めた。
「なんだか『キス』って言葉、一番部長らしくないです!」
「俺は付き合ってる演技が上手なんだろ? そこまで完璧に恋人らしく振る舞えるとは思ってるのに、なんでそういうことだけは想像できないんだ」
「それも……そうか」
「納得するのか」
「ぶちょ、いや、慧さんが言ったんじゃないですか」
慧さんが呆れたように小さく笑い、私もつられるように口元を緩めた。
けれど、笑ったあとで、また視線が絡んだ。
今度はさっきまでとは少し違う。
慧さんの目がまっすぐ私に向けられていることを意識した途端、胸の奥が妙に落ち着かなくなる。鼓動がひとつ、またひとつと速くなっていく。
あれ。どうして私、こんなに緊張してるんだろう……。