偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
そう思った、そのときだった。
「あれ~? お客さん!?」
「えっ?」
突然響いた明るい声に、私たちは弾かれたように視線を逸らした。
慌てて声のしたほうを見ると、リビングの入り口に大学生くらいの男の子が立っている。
くりっとした大きな目に短い黒髪、がっしりとした体格は何かスポーツでもしているように見えた。
突然現れた彼は私と慧さんを交互に見比べると楽しそうに笑った。
「あ、ごめん。お邪魔しちゃった? っていうか、慧兄が彼女連れ込んでるなんて珍し――あっ、もしかしてお見合い相手の人?」
「お見合い?」
聞き覚えのある単語に、思わず慧さんを見る。
けれど、慧さんは私の疑問に答えるより先に、男の子を見てあからさまに眉を寄せた。
「ちょっと待て。翠、その前に何度も言ってるだろ。勝手に入ってくるな」
「だって鍵持ってるんだからいいじゃん」
「よくない。返せ」
「やだよ。仕事ばかりの慧兄の生存確認に必要だもん」
「……慧兄って、もしかして弟さんですか?」
「は~い。弟の翠で~す」
そう言って翠くんは片手を上げ、初対面の私にも人懐っこい笑顔を向けた。