偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
自分で言っておきながら一気に顔が熱くなってきたけれど、今さら訂正すれば余計に話がややこしくなりそうだ。
黙っていると、慧さんはしばらく私を見つめたあと、どこか楽しそうに目を細めた。
一方の翠くんもぽかんとしていたのは一瞬で、すぐに声を上げて笑い出した。
「ハハ、そうなんだ。あなたからなんだ。いいね、積極的な女性って」
「いや、あの……」
そう言って、翠くんは近づいてきて耳元で話す。
「でもね、今まで慧兄は押されても、押し倒されても落ちなかったんだよ。それで落ちたなら、慧兄もあなたのことが好きなんだ」
「……押し倒されても?」
さらっと聞き捨てならない情報が混ざっていた気がする。
気づけば慧さんがとなりにいて、近寄っていた翠くんの顔をぐっと私から遠ざけるように押した。
「翠。余計なことを言うな」
「だって本当じゃん」
「だからといって彼女の前で言う必要はない。悠里も興味を持つなよ」
「持ってませんよ! 別に、押し倒されたことになんて興味ありませんから!」
即座に否定したものの、本当はちょっとだけ気になった。
やっぱり、モテるんだ。
当然と言えば当然だし、これまでだってそう思っていたはずなのに、実際に女性から迫られたことがあると聞くと、なぜか胸のあたりが少しだけもやっとする。