偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「あの、私、ちゃんとお礼したいです」
「これで十分だけど?」
「十分じゃないです。全然足りません」
私は少し考えてから、膝の上に置いていた手をぐっと握った。
「だから、慧さんが困ったとき……今度は私が助けますから」
そう言って、宣言するように握ったこぶしを慧さんの前に見せる。
一瞬きょとんとしていた慧さんは、すぐに堪えきれないように笑った。
「なんですか。笑わなくてもいいじゃないですか」
「いや、悪い。ずいぶん頼もしいなと思って」
「本気ですよ。私だって、やるときはやりますから」
「ああ。じゃあ、そのときは頼らせてもらうよ」
「はい。期待しててください」
慧さんはまだ少し笑いながらも頷いた。
なんて言ったものの、この人が本当に困ることなんてあるのだろうか。
仕事ができて、何が起きても冷静で、私が困っているときにはいつも先に気づいて手を差し伸べてくれる。
昨日だって、私は電話一本で慧さんを頼った。
なのに私は、この人が困っているところさえ見たことがない。
いつも一方的に助けられてばかりだ。
そのことに気づくと、自分のふがいなさが少しだけ嫌になった。
いつか本当に、この人が困ることがあったら、そのときくらいは私が助けたい。
今度は私が、慧さんに手を差し伸べられる人になりたい。
そんなことを考えながら隣を見ると、慧さんは何も知らない顔でコーヒーを飲んでいた。