偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「リーダーは、片瀬に頼もうと思ってる」
「えっ……私ですか?」
あまりにも予想していなかった名前が出てきて、思わず自分を指差しそうになった。
私も入社してそれなりの年数が経っているし、もう若手だからと言って誰かの後ろについていれば許される立場でもない。
それでも、L'ÉCRINの五十周年企画という大きなプロジェクトを任せられるほど経験豊富かと言われれば、とてもそうは思えなかった。
しかも慧さんの後を引き継ぐことになるのだ。
さっきまで考えていた支配人の顔まで浮かんできて、急に胃のあたりが重くなった。
「リーダー補佐は、結城課長」
続いて告げられた名前に、今度こそ私は驚いて結城課長を見た。
――え、補佐が課長?
順番が逆なのではないだろうか。
どう考えても結城課長がリーダーで、私がその補佐をするほうが自然だと思う。
けれど慧さんはそのまま、若手から中堅までバランスよく数名の名前を読み上げ、その中には三原さんも入っていた。
「以上。このチームでいきたいと思ってる。もちろん通常業務との調整も必要になるから、難しい事情があるなら今ここで言ってくれて構わない。どうだ、みんな」
何人かが頷くのが見えたけれど、私はそれどころではなかった。
「わ、私がリーダーって……。すみません、やっぱり私では力不足だと思います」
「俺は一人で全部なんとかしろとは言ってない」
きっぱりとした声で慧さんは返した。
「片瀬がリーダーで、結城課長が補佐につく。チームのメンバーもいるし、当然俺も必要なところではフォローする。リーダーだからって、何もかも一人でできる必要はないだろ」
「でも……」
「それに、力不足かどうかを判断するのは、やってみてからでも遅くない。俺はこれまでの仕事を見たうえで、片瀬に任せたいと思ってる」
そこまで言われると、何も返せなくなった。
偽の婚約者として一緒に過ごすようになってから、慧さんの優しい顔を見る機会が増えたけれど、今ここで私を見ているのは、あくまで上司としての久世部長だ。
だからこそ、その言葉が余計に重かった。
私を助けたいからでも、困っているからでもない。これまで私がしてきた仕事を見たうえで任せると言ってくれている。