arch
翌日も槇野くんはそこにいて、私はほんの少しほっとした。
昨日のことで、話しかけるなどと無謀なことはしないけれど、それでもなぜか槇野くんが来ていたことに嬉しく思った。
……嬉しい、とは?
怖いのに?
だって、せっかく入学したのに、勿体ないというか、誰かがいなくなるのは嫌だった。それだけのことだ。
この日も槇野くんとのやり取りは、振り向くこともなくプリントを後ろ手で配られたこと。それに私は慌てて受け取った。だけ。
槇野くんは誰とも話していなかった。昨日の態度から察するに“話しかけるなオーラ”がすごい。
一人ぼっちが嫌で、理由なく由紀恵に話しかけた私にとって、本当に一人がいいのか、信じられない気持ちだった。
この日も槇野くんは早退することもなく、私の前の席に座っていた。

帰り際、振り返った彼に勇気を振り絞って顔を上げたけれど、彼が私の方を見ることはなかった。
ふーっと大きく息を吐く。何だか怖くて……槇野くんがこっちを向くとうまく息が出来ないのだ。

……槇野、周くん……か。

明日も来たらいいなあ、槇野くん。ぼんやりと、そう思った。

──その次の日も……
私が登校すると、前の席には槇野くんがいてほっとするところから朝が始まる。
槇野くんも、もう毎日学校に来るだろう。ここにいるのが当たり前に馴れていくのかな。
彼の大きな背中を見ていたら、後ろ手にプリントが差し出され、慌てて手を出した。
私が受け取るのを感覚で確認すると、腕を戻した。
すらり、長い腕。
早く馴れたらいいなあ。なんて、呑気に思っていた。

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