arch
ところが……
この日は私が登校した時には、前の席は空席だった。
今日はいつもより早く教室に着いてしまったのだろうかと、時計を確認する。
時計はいつも通りの時間を指していた。
たまには、遅い日だってあるのかもしれない。まだチャイムは鳴っていない。トイレかもしれない。
来ていない可能性を信じたくないかのように、私は席にいない理由をあれこれと考えた。
チャイムが鳴った時には、少し遅れてくるのかな。午前中最後のチャイムが鳴った時は、今日は昼から来るのかな、なんて……この日は何度もドアを確認した。
だけど一番最後のチャイムが鳴っても槇野くんが来ることはなかった。

「来なかったなあ」
ボソリ呟いた。

「でも、槇野くんが来ると教室ピリッとしちゃうからなあ」由紀恵は何気なく言ったのだろうけど
「そ、そんなことないよ、楽しみにしてるよ!」と言ってしまい……「みんなが」と無理矢理付け加えた。
「唯は怖くないの?」
「……うん」嘘だけど。怖いけど、何か槇野くんが悪く言われるのは嫌だった。
「感じ悪かったのに?」
「そ、そんなことないよ! 優しいよ!」

ああ、ますます二人は変な顔で私を見ている。
「優しい? どこが?」
「あの、プリント……届く様に渡してくれる」
つまり、プリントの受け渡し以外の接点は、未だに無かった。
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