arch
TIP-OFF
 週明け、月曜日
空席が目に入り、私は重苦しい気持ちでそこにいた。槇野くんの席を通りすぎて自分の席に着くと、彼の椅子をズズズと自分の方へ引いて、机の引き出しの中に何か荷物が入ってないか覗いた。
 うーん……空っぽだ。

「残念」何か置いていたら、それを取りにまた登校してくるかもしれない。何か小さな事でも彼が登校する理由が欲しかった。

「187.2」
 低い声とともにドカッと前の席に大きな鞄が置かれた。見上げて、目が合う。

「ど、おは、おはおはよう!!」
 槇野くんは「うん」と頷いてまだ彼の椅子の背もたれを持ったままだった私の手へと視線を移す。
「あ、わあ! ごめん! ど、ど、どうぞ」
 どうぞも何も槇野くんの席だ。槇野くんは私が椅子から手を離したのを確認すると腰を下ろした。

 来た。来た!来たよ~!机に突っ伏して目だけを上げて彼の背中を何度も確認した。黒板が見にくい。嬉しい。嬉しい~。
 HRが始まっても何度も何度も彼の背中を確認した。やっぱり髪の毛サラサラだなあ。

「……プリント」
「あ、ごめっ」
「ん」

 ぼーっとしてたせいでいつもみたいに後ろ手のプリントに気づかず、彼は私の方へと体をねじっていた。一瞬。だけど、これ……私、相当嬉しい。

 ん?朝の……187.2って何だろうか。
 残念ながら、私にはもう“何?”って訊けるエネルギーは残っていなかった。
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