arch
「はは! 槇野が来たら宮原の姿が全く見えないな」マッセンがそう言ったので、私は彼の後ろからひょこっと顔を出した。マッセンから顔が見えるように、居ますアピールのつもりだった。そのタイミングで槇野くんがチラリ私を振り返った。
 ……至近距離で合う目。
 一瞬、マッセンの雑談にくすくす笑う教室の声も、何も聞こえなくなって、時が止まったみたいだった。涼しげな目元が少し笑った気がした。だといいなって幻想だったかもしれない。

「もういいぞ、宮原。ひょっこり」
マッセンに言われて……自分がくすくす笑われているのがわかるけれど、顔が熱くなってうつ向いたのは、それが恥ずかしかったからではなかった。
自分の心臓が忙しなく動き、短い呼吸を何度か繰り返した。
大きく息を吐くと、チラリと彼の背中を見上げた。何だか少し泣きそうになって、何だろうこの気持ち。緊張のような、羞恥心のような。トータル……“嬉しい”に近い。

 ああ、ダメだ。今日は……何も手につかない気がする。背中、首、長い……腕。意外にきっちり着てる制服。

 槇野くんが前にいる。それが嬉しい。嬉しいけれど、また来なくなったらどうしよう、そんな不安な気持ちといつも抱き合わせだった。

 槇野くんは相変わらず、一人でその席にいた。
< 17 / 44 >

この作品をシェア

pagetop