arch
母親の驚いた顔が一瞬見えたけど……私はそのまま家を飛び出した。

 round and round……リズムに乗って。その間も《《彼の銀色のボール》》が心の中で回っていた。

「ま、槇野くん!」
 思わず河川敷に下りる堤防の上で叫んだ。突然名前を呼ばれた彼が目を見開く。ああ、馬鹿じゃないの。槇野くん、私の事認識しているのか、どうなのか。考えなしにここまで走ってきて、息も絶え絶え。必死でマンションを指差した。

「わた、私の家! そこで! マンションで!7階で! ベランダで! 見つけ! ナイスシュート!!」
 槇野くんは訝しげに私の顔とマンションとを交互に見て

「ああ」と小さく溢した。
「見てたんだ……」と。

 ……。
 えと、ここでやっと冷静になって、むしろ血の気が引いてこの階段を下りるべきか、背を向けて逃げるべきか。逃げたいのに、小走りで私の体は槇野くんの元へと向かったのだった。槇野くんは、私が彼の前に到着するまでその場にいてくれた。夕暮れの河川敷の風が槇野くんの髪を散らす。切れ長の目は細められ、怖いなんて一切思わなかった。

「あの、そ、背! 高いね」
 目の前で彼を見上げて言ってしまったのは、最初と同じセリフ。

「だから、187.2」
 彼はそんな私に呆れたのか、ふっと笑ってそう言った。
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