arch
One step
 ──翌朝

 会いたいのに会いたくなくて、いつもより少し家を出るのが遅くなってしまった。学校に行きたくないのに、いつもより念入りに身支度を整える矛盾に時を過ごし、力一杯自転車をこいだ。
それによって時間をかけた身支度は3漕ぎくらいで無駄になったけれど
遅刻するわけにはいかない。……春、だな。空気が温い。もう寒さに戻る事はなく日に日に暑くなっていくだろう、そんな空気を全面に受けて、着くころには余裕で間に合うところまで時間を巻いた。

自転車置き場に着いた頃には脈拍が乱れ、それは自転車を漕ぎすぎたせいでないのは、わかってる。

 ああ、来てるのかな「……槇野くん」思わず声に出てしまって、人の気配に慌てて自転車を停めた。ささっと前髪を直す。大して代わり映えはないのだけど……。

「おはよ」
 聞き覚えのある声に固まる。脈拍はマックスで耳の奥で自分の鼓動が聞こえる。

 そおっと振り返る。
「おはよう」我ながら恐ろしいほどの声量の弱さ。

「昨日、ありがとう、嬉しかった」
 そんな槇野くんも私より小さいんじゃないかってくらいの声でそう言った。

 そして、そのまま行ってしまった。背中、いつもの、見慣れた、好きな、背中。ありがとう?嬉しかった?どっち、槇野くん、どっちの意味で取ったのお~?

 しばらくそこを動けずに、だけどしっかりと彼の背中に斜めにかけられた大きな鞄にほっとしていた。

 今日も……河川敷にいかなくちゃ。そう思った。




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