arch
「うん、俺も……聞いて欲しいと思う」
 槇野くんは無理矢理笑顔を作る。

「とても格好いいとは言えない話なんだけど、聞いてくれる?」
 私は静かに頷いた。

 私を見ていた槇野くんの視線がずれてそれに合わせて私も振り返った。うちのマンションのベランダ。どうやら母親が心配して見に出てきたらしい。

 そうか、もうすっかり暗い。槇野くんが母親向けにぺこりと頭を下げてくれた。
「ごめん、気づかなくて。行こっか、真っ暗だ」
 そう言うと槇野くんは急ぎ足で歩いて行った。私はいつもの通りに背中を追いかける。

「今度ね」空気を変えるのに槇野くんは明るく言ってくれた。恨むよ。母親も、早く沈む太陽も。

 背中を見ながら、本来の決意だったもの、それを少し変えて、彼の背中に呟く。
「……槇野くん、モテるだろうね」
 聞こえなくてもいいと思ったけれど、バッと肩越しに振り向くと
「かもね」なんて大袈裟に両手を広げて茶化して見せた。
「もう!」
 彼の背中をドンッと押した。否定しない、これって絶対、モテるんだよ。

「ああ、でも……昨日の」
「え?」
「いいや、まあ。全部、また今度」
「ええ~」
「あはは!」

 初めて、楽しそうに笑う槇野くんの声に胸は高鳴るけれど、見えるのが背中で良かったなと思う。

 もう一度、ブレーキをかけ直せたから。
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