君の才能ごと、独り占め
それを実感した瞬間、足元が少しだけ揺らいだ気がした。
けれど、舞台中央のピアノへ歩きながら、私は昨日の音を思い出す。

恒一くんの低音。
支えてくれる和音。
楽しかった、あの感覚。

椅子に座り、そっと鍵盤に指を置く。

一音目を鳴らした瞬間、世界が静かになった。

やわらかく、透明な音が講堂の空気を満たしていく。
最初はそっと。
それから少しずつ、心の奥にあるものをほどくみたいに旋律を重ねる。

見せるためじゃない。

勝つためじゃない。

ただ、好きだから弾く。

その気持ちだけを音に乗せていく。

途中から、客席の存在はほとんど気にならなくなった。
緊張がなくなったわけではない。
でも怖さより、音楽に触れている感覚のほうが大きかった。

ピアノの響きが、講堂の天井へ昇っていく。
自分の指から生まれた音なのに、どこか遠くて、でも確かに自分の一部だった。

最後の和音を鳴らし終えた瞬間、静寂が落ちる。

ほんの一秒。
二秒。

そして次の瞬間、講堂いっぱいに拍手が広がった。

大きい。
思っていたよりずっと。

私は息を呑んだまま、ゆっくり立ち上がる。
ライトの熱が頬に触れる。
でももう、怖くなかった。

深く一礼して舞台袖へ戻ると、そこでも小さなどよめきが起きていた。
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