過去の傷も全部、君の熱で上書きして。
その日の夕方。
定時を過ぎ、残業の準備をしようと給湯室へ向かった結衣の前に、待ち伏せていた廉がスッと現れた。
周囲に誰もいないことを確認し、廉は結衣の袖口をすっと引っ張る。
「結衣ちゃん。今日、この後俺の家────」
「・・・・瀬戸くん。」
結衣は繋がれそうになった手をサッと引き戻し、意識して冷たく固い声を絞り出した。
「社内では話しかけないでって言ったでしょ。それと・・・。当分、仕事終わりの約束も控えようと思うの。」
「・・・・え?」
廉の爽やかな笑顔が凍りつき、瞳の奥にすっと暗く厳しい色が差した。
「どういう意味ですか?」
「社内で噂になってるの。私たちが怪しいって・・・同僚からも聞かれたの。瀬戸くんは大切な時期なんだから、私みたいな年上と変な噂が立ったら困るでしょ? だから・・・お互いために、しばらく距離を置こう。」
自分を守るため、そして何より大好きな廉の未来を守るために吐き出した言葉。