サーカス&バンドの年の差恋愛
インスタライブの配信が終わり、画面が静かに切り替わった瞬間——部屋には温かな沈黙が訪れた。
二人はまだ少し緊張した面持ちで目を合わせ、それから同時に笑顔になった。
「お疲れさま」
愛斗がそっと囁くと、正子は一歩近づいて腕を回した。
「うん、一緒に言えてよかった」
唇が触れ合う。それは配信では見せなかった、本当に小さくて柔らかなキスだった。何度も、何度も、抱きしめ合うようにくり返し、肌を寄せ合い、くすぐり合い、笑い合い——離れがたくてずっとそばにいた。話しているうちに、いつしか穏やかな眠りが訪れた。
あさ、柔らかな光が窓から差し込む頃、二人はほぼ同時に目を覚ました。
目が合うと自然に笑顔がこぼれ、またそっとキスをする。
「おはよう」
「おはよう」
正子がキッチンに立ち、朝ご飯を作ってくれた。湯気の立つ味噌汁、焼き魚、ふっくらとしたご飯——愛斗はその温かさを胸いっぱいに受け止めながら、一口一口味わった。
「美味しいよ。本当に」
正子は嬉しそうに目を細める。
「よかった💕 いっぱい食べてね」
支度を整えて駅へ向かうと、ホームでありさ、高、勇一が待っていた。
「おはよう!」
笑顔で挨拶を交わしたところで、ありさがスマホを手に近づいてきた。
「ねえねえ、見て! ネットニュースにもなってるよ。インスタライブのこと」
「えっ、もう?」
正子が覗き込むと、確かに二人の姿と「交際宣言」の文字が並んでいる。
勇一がにっこり笑いながら言う。
「早いですね。お似合いだった」
高もからかうように肩を組んでくる。
「有名人カップルだな。これから大変だぞ~」
「からかわないでよ~」
正子が照れてはにかむと、愛斗がそっと肩を抱いて守るように笑った。
駅弁と飲み物をそれぞれに買い求め、新幹線に乗り込む。
車内では向かい合って弁当を開き、お互いのおかずを分け合うように食べる。愛斗は自分の弁当から、そっと椎茸の煮付けを取り分けて正子の箸に届けた。
「これ、正子が好きだったよね」
「わあ、ありがとう💕 嬉しい」
甘くてやさしい味が口の中に広がる。話も弾み、笑い声が車内に響く。そうしているうちに、やがて大阪の街が窓の外に広がってきた。
新大阪駅に降り立つと、マイクロバスに乗り換えてライブハウスへと向かう。車の中でも話は尽きることがなく、これから歌う曲のこと、お世話になるスタッフのこと、いろいろな夢を語り合っていると、やがて目的地に到着した。
まずは休憩を挟んで気持ちを整え、1時間かけてリハーサルを行う。声を合わせ、立ち位置を確認し、一音一音を確かめるように歌う。充実した時間が過ぎ、リハーサルが終わると、また1時間の自由時間が与えられた。
「近くを散歩しよう」
四人で歩き出し、湧き水を汲める場所でペットボトルに天然水を詰める。冷たくて澄んだ水——それぞれに持って、またゆっくりと歩き出す。
スタッフルームに戻ろうとした時、入口に一人の女性が立っていた。
髪も服装もきちんと整え、おめかしをした年配の方だ。警備員が困ったように声をかけている。
「どうしても『自分がここでコンサートをする』とおっしゃって聞かないんです……」
愛斗が女性の横顔を見て、はっと立ち止まった。
「……もしかして、及川しのぶさんですか? 元ジャンソン歌手の」
柔らかく話しかけると、女性は少しだけ表情が和らいだ。愛斗はすぐに携帯電話を取り出し、女性の入所されている老人ホームへ連絡を入れ、状況を伝えて迎えに来ていただくようお願いした。しばらくして介護スタッフの方が駆けつけてくださり、丁寧にお話をして女性を落ち着かせていただいた。
女性が連れられたあと、ありさが感心したように言った。
「愛斗くん、よく状況がわかったね。認知症の方への対応、詳しいんだね」
正子が隣で誇らしげに笑顔を輝かせる。
「うん、愛斗くんは前から認知症のことを一生懸命勉強していたの。だからすぐに気づけたんだよ」
「そうなんだ。すごいな」
高も勇一も心から感心したようにうなずいた。
そうして再びリハーサル室に戻り、最後の調整を行う。声の響き、曲の流れ、心の込め方——全てを確かめ合い、充実したリハーサルを終えた。
夜になり、ホテルへと戻る。
部屋の扉を閉めると、愛斗は正子を優しく抱きしめた。
「今日も一日、お疲れさま」
「こちらこそ。愛斗くんがいてくれたから、安心して過ごせたよ」
二人はベッドに腰を下ろし、そのまま強く抱き合う。お互いのぬくもりを全身で感じながら、今日一日の出来事を振り返り、明日のライブがきっと素晴らしいものになると信じ合った。
二人はまだ少し緊張した面持ちで目を合わせ、それから同時に笑顔になった。
「お疲れさま」
愛斗がそっと囁くと、正子は一歩近づいて腕を回した。
「うん、一緒に言えてよかった」
唇が触れ合う。それは配信では見せなかった、本当に小さくて柔らかなキスだった。何度も、何度も、抱きしめ合うようにくり返し、肌を寄せ合い、くすぐり合い、笑い合い——離れがたくてずっとそばにいた。話しているうちに、いつしか穏やかな眠りが訪れた。
あさ、柔らかな光が窓から差し込む頃、二人はほぼ同時に目を覚ました。
目が合うと自然に笑顔がこぼれ、またそっとキスをする。
「おはよう」
「おはよう」
正子がキッチンに立ち、朝ご飯を作ってくれた。湯気の立つ味噌汁、焼き魚、ふっくらとしたご飯——愛斗はその温かさを胸いっぱいに受け止めながら、一口一口味わった。
「美味しいよ。本当に」
正子は嬉しそうに目を細める。
「よかった💕 いっぱい食べてね」
支度を整えて駅へ向かうと、ホームでありさ、高、勇一が待っていた。
「おはよう!」
笑顔で挨拶を交わしたところで、ありさがスマホを手に近づいてきた。
「ねえねえ、見て! ネットニュースにもなってるよ。インスタライブのこと」
「えっ、もう?」
正子が覗き込むと、確かに二人の姿と「交際宣言」の文字が並んでいる。
勇一がにっこり笑いながら言う。
「早いですね。お似合いだった」
高もからかうように肩を組んでくる。
「有名人カップルだな。これから大変だぞ~」
「からかわないでよ~」
正子が照れてはにかむと、愛斗がそっと肩を抱いて守るように笑った。
駅弁と飲み物をそれぞれに買い求め、新幹線に乗り込む。
車内では向かい合って弁当を開き、お互いのおかずを分け合うように食べる。愛斗は自分の弁当から、そっと椎茸の煮付けを取り分けて正子の箸に届けた。
「これ、正子が好きだったよね」
「わあ、ありがとう💕 嬉しい」
甘くてやさしい味が口の中に広がる。話も弾み、笑い声が車内に響く。そうしているうちに、やがて大阪の街が窓の外に広がってきた。
新大阪駅に降り立つと、マイクロバスに乗り換えてライブハウスへと向かう。車の中でも話は尽きることがなく、これから歌う曲のこと、お世話になるスタッフのこと、いろいろな夢を語り合っていると、やがて目的地に到着した。
まずは休憩を挟んで気持ちを整え、1時間かけてリハーサルを行う。声を合わせ、立ち位置を確認し、一音一音を確かめるように歌う。充実した時間が過ぎ、リハーサルが終わると、また1時間の自由時間が与えられた。
「近くを散歩しよう」
四人で歩き出し、湧き水を汲める場所でペットボトルに天然水を詰める。冷たくて澄んだ水——それぞれに持って、またゆっくりと歩き出す。
スタッフルームに戻ろうとした時、入口に一人の女性が立っていた。
髪も服装もきちんと整え、おめかしをした年配の方だ。警備員が困ったように声をかけている。
「どうしても『自分がここでコンサートをする』とおっしゃって聞かないんです……」
愛斗が女性の横顔を見て、はっと立ち止まった。
「……もしかして、及川しのぶさんですか? 元ジャンソン歌手の」
柔らかく話しかけると、女性は少しだけ表情が和らいだ。愛斗はすぐに携帯電話を取り出し、女性の入所されている老人ホームへ連絡を入れ、状況を伝えて迎えに来ていただくようお願いした。しばらくして介護スタッフの方が駆けつけてくださり、丁寧にお話をして女性を落ち着かせていただいた。
女性が連れられたあと、ありさが感心したように言った。
「愛斗くん、よく状況がわかったね。認知症の方への対応、詳しいんだね」
正子が隣で誇らしげに笑顔を輝かせる。
「うん、愛斗くんは前から認知症のことを一生懸命勉強していたの。だからすぐに気づけたんだよ」
「そうなんだ。すごいな」
高も勇一も心から感心したようにうなずいた。
そうして再びリハーサル室に戻り、最後の調整を行う。声の響き、曲の流れ、心の込め方——全てを確かめ合い、充実したリハーサルを終えた。
夜になり、ホテルへと戻る。
部屋の扉を閉めると、愛斗は正子を優しく抱きしめた。
「今日も一日、お疲れさま」
「こちらこそ。愛斗くんがいてくれたから、安心して過ごせたよ」
二人はベッドに腰を下ろし、そのまま強く抱き合う。お互いのぬくもりを全身で感じながら、今日一日の出来事を振り返り、明日のライブがきっと素晴らしいものになると信じ合った。