サーカス&バンドの年の差恋愛
次の日も、同じ大阪のライブハウスでコンサートを行う。
朝から会場に集まった四人は、リハーサルの準備を進めていた。声出しを始めたその時——スタッフが案内してきたのは、少し緊張した面持ちの中年の女性だった。
「すみません……お時間よろしいでしょうか」
女性は正子の前に進み出ると、深く頭を下げた。
「実は先日、週刊誌の記事を読んで、初めて知ったんです。私の息子が、マクドナルドでお二人の姿を見かけたとき、年の差恋愛だなんて言って、馬鹿にするようなことを言ったそうで……。それを聞いて、本当に申し訳なくて」
女性の目には涙が浮かんでいた。
「私はずっとサーカスのファンです。正子さんの歌を聴いて、何度も勇気をもらってきました。そんな大切な方に、息子が失礼なことをしたなんて……。本人にもきつしかりました。どうか、心からお許しください」
謝罪の言葉が途切れると、正子はそっと前に出て、女性の手を両手で包み込むように握った。
「頭を上げてください。謝りに来てくださって、ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です」
愛斗も静かにうなずいた。
「息子さんも、きっと反省してくれていると思います。もう気にしないでください。許します」
二人がそう言うと、女性は肩を落としていた力が抜け、安堵の涙を流した。
「ありがとうございます……! 本当にありがとうございます」
その後、正子たちはありさ、高、勇一を呼んで、女性から事情を聞いたことを話した。
「そうだったんだね。わざわざ謝りに来てくださったなんて、誠実な方だね」
ありさが柔らかい声で言うと、高もうなずく。
「そうだな。ちゃんと謝罪に来るって、なかなかできることじゃない」
「そのお気持ちに応えるためにも、今日は素晴らしいライブにしましょう」
勇一が穏やかに言うと、みんなで頷き合った。
心が清らかになった気持ちでリハーサルを再開する。昨日よりも、もっと声が一つになるように——心を込めて歌い、奏で、確かめ合う。それぞれの想いが音になって会場に広がっていくようだった。
やがて開演の時間が来た。
満員のお客さまの前で、サーカスのメンバーが歌い、語り、笑い——。
最後の曲が終わり、大きな拍手が響き渡る中、正子がマイクを手にした。
「今日は皆さま、本当にありがとうございます」
会場が静かになるのを待って、正子は続けた。
「私には、大切な人がいます。いつもそばにいてくれて、私を笑顔にしてくれる人です。今日は皆さまに、ご紹介したいと思います」
正子が視線を送ると、ステージの脇から愛斗が歩み出てきた。
スポットライトが二人を照らし、拍手が再び湧き上がる。
「末山愛斗くんです」
愛斗が正子の隣に立ち、お客さまに一礼してから、正子の方を向いた。
その瞳は、真っ直ぐに正子だけを見つめていた。
「正子さん」
愛斗の声が会場に響く。
「僕はいつも、正子さんの笑顔に救われてきました。一緒にいるだけで、心が温かくなるんです。年が離れているなんて、全然関係ない。僕が守りたいのは、正子さんなんです」
愛斗がポケットから小さな箱を取り出し、そっと開く。
光を受けて輝く指輪が、そこにあった。
「結婚してください。これから先も、ずっと一緒に生きてください」
正子は目の前の愛斗を見て、涙があふれて止まらなかった。
頬を伝う涙を拭うことも忘れ、大きくうなずいた。
「はい……! 愛斗くん、よろしくお願いします」
愛斗が指輪を正子の指に通し、そっと手を握りしめる。
ステージの上で二人は見つめ合い、そして柔らかくキスをした。
会場中が、温かな拍手と歓声に包まれて——。


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