先生はキケンな許嫁。
「そういえば、珍しく今日帰り遅くなかった?」
「……あ、うん、ちょっとね」
「なに?デート?」
「まぁ、彼氏……ってやつ」
「だれ?」
「別に言う必要ないでしょ!……ひょ、ひょっと!」
先生の視線から目を逸らした瞬間、両手でほっぺたを掴まれた。
ぶちゅーっとした私の顔を見て、先生はニヤッと笑って楽しんでいる。
「俺は美織ちゃんの許嫁だよ?ちゃんと知る権利がある」
「なんで私だけが言わなくちゃいけないの!
……そんなのずるい」
「さっきの人がだれか、気になってる?」
「……そりゃあ、あんなとこでキスしてたら気になるに決まってるんでしょ!」
「美織ちゃんから話してくれたら、いいよ♪」
「……っ……」
私は仕方なく、拓哉先輩と付き合うことになったのを打ち明けた。
「そっかー、蒼井ねぇ、イケメンだもんねぇ」
「……はやく、教えなさいよ」
「こらぁ。先生に向かってその口の聞き方はいけません!教えてください、でしょ?」
「……いちいち、触らないでってばぁ!」
私の頭の上に先生の手が触れた。
その手はずっと動くことなく、先生の手のひらの体温が伝わってくる。
「さっきのは元カノ」
それを聞いた私は少しだけ胸がチクンっとなった。なんなのよこの気持ち……
「あれ、美織ちゃん嫉妬してる?」
「……してない!」
「かわいなぁ、もう食べちゃいたい」
「……いいから早くお風呂入って!ちゃんと顔洗ってよね!」
先生は着替えをキャリーケースから引っ張り出して、洗面所に向かった。
「あ、あのさ、先生…」
「ん?なに?」
「さっきは……ありがと」
「聞こえないなぁ、なんて?♪」
「ありがとうって言ってんの!」
恥ずかしくなった私は必死に高鳴る胸の鼓動を抑えながら、洗面所のドアを閉めた。