ハズレ枠シリーズ短編集

ずっと仲良し


中学二年の四月末。
ゴールデンウィーク前のこの時期は、新しい学年やクラスにもみんなが徐々に慣れてきて、少し緩んだ時期だった。
なおは二年に上がってから毎日が今まで以上に楽しい。
理由は、明白だった。

「では、この数式は――……」
先生の声が、心地よい春の午後。
数学の授業は特に眠たい。
うとうとしかけたところで、ぽん、と隣から紙片が投げ込まれる。
はっとして隣を見ると、彼は顔を前に向けたまま、手のひらだけ小さくこちらにひらりと振っていた。

紙を、そっと開く。

一言、“よだれ”と書いてあった。

はっとして慌てて口元を拭う。

よだれは出ていなかった。

(もうっ!)

ノートの端に、ちいさく怒って頬を膨らます自画像を描き、それをちぎって彼に投げた。
紙が飛び込んできたあきくんが、開いて中を見て、一瞬だけ笑った気配がした。
再び飛び込んできた紙には、かわいい、と一言書いてあった。
気を良くしたなおは、今度はあきくんと自分の二人を並べて描いた。
手も繋がせて、仲良しアピールにも余念が無い。
先生が口にした“中間テスト”という言葉に、慌てて黒板を見上げる。
ゴールデンウィークに入って忘れないようにと念を押しながら説明をされることで、また思考は違う方向へ跳ぶ。

(そっか、もう長い休みに入っちゃうのか)

あきくんと会えないのがつまらないなと思ったなおは、先ほど描いた二人のイラストに、吹き出しを付け加えた。

ぽいっとあきくんの机に放り投げたところで、先生と目が合った。

「保坂! 日高!」

慌ててあきくんが紙を隠そうとするが、それより早く取り上げられてしまった。

中を開いて見た先生が、ため息をつく。
「デートの誘いは、休み時間にしろ!
 ゴールデンウィークが近いからって、浮かれすぎだろ!
 彼女いない俺に当てつけか!」
いっきに真面目な授業から、笑いへとクラスの空気が変わる。
あきくんの頬が、うっすら赤く染まる。
ゴールデンウィークの遊びの誘いよりも、自分の描いたイラストを見られたことのほうが、なおは恥ずかしかった。

「まじかよ!
 千秋、お前なおのこと好きだろ!」
クラスメイトのからかいに、あきくんは一つため息をつくと、「そうだけど?」とさらりと言った。
その言葉に嬉しくなり、なおも勝手に付け加える。
「うんうん、あたしたち仲良しだよ!」
クラスがわっと沸き上がる。
あきくんは未だ赤い頬のまま、それでも堂々としていた。
二人をからかった男子は、何も言えなくなっていた。

「相思相愛の二人には悪いが、今はXとYの関係の方が大事だからなー。
 そろそろ授業に戻らないと、先生辛いわー」
敢えて間延びさせた言い方をしながら、先生が授業の舵を取り直す。
ぽん、と紙片は先生の手からあきくんに戻された。
「いいなぁ」という先生の呟きに、なおは心の中で、いいでしょと笑った。
あきくんと知り合う前の、一年の時が思い出せない程、この一ヶ月は色鮮やかで楽しい。

あきくんは、大切な人だった。


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