ハズレ枠シリーズ短編集

【なお編】唯一無二の贈り物


一緒にいるのは半年足らずなのに、あきくんがいない生活が考えられない。
土日もできる限りは一緒にいるのが常だったが、今日は残念ながら家族でお出かけの日だった。
大型ショッピングモールを歩きながら、前を歩くまなとゆめの会話を何の気なしに聞いていた。
「おじいちゃんとおばあちゃんに何をあげる?」
「おじいちゃんの好きな牡丹餅でも作ろうかなとは考えてる」
まなは得意の料理で行くのかなんて思いながらも、なおの意識は別のところにあった。
料理は別に嫌いではない。
こだわり始めたらまなとは違う意味で止まらない。
けれどいまいちピンと来ない。
そんな中、特設会場にちょっとしたワークスペースが出来ている。
その中の一つを見て、これだ!と指を鳴らした。

九月十八日。
朝練の時間よりも一段早く、なおは日高家のチャイムを鳴らした。
ガチャリと開いたドアからは、予想通りの姿が覗いた。
「おはようあきくん!
 お誕生日おめでとう!」
「うん、ありがとう」
メッセージアプリで日付が変わった瞬間に伝えてはあったが、それでも朝一番に言いたかった。
なおが目を輝かせながらあきくんの顔を覗き込む。
あきくんは一つ頷くと頬をわずかに染めた。
「まだ親にすら言われてねぇよ。
 メッセージも直接も、なおが一番」
「やった!」
ぽん、とあきくんが頭を撫でる。
髪の毛を混ぜる感触が気持ちよくて、なおは目を細めた。

「はい、プレゼント」
忘れないうちに鞄から取り出して渡す。
青いラッピングバッグに包まれたそれは、なおが自分で選んで包んだもの。
きれいな瑠璃色のそれに合わせて、金の刺繍入りの白リボンを結んだ。
「うわ、なんかすげー!
 俺そんな大したものなおにあげられてないのに……もらっていいのか?」
「え、あたしは嬉しかったよ?」
あきくんがくれたのは、ちょっとしたシュシュの詰め合わせだった。
ファンシーショップで売っているものよりも一段大人っぽいそれらはお気に入りで、学校でも体育の時には使っている。
「そんなすごい高い物じゃないけど。
 唯一無二には仕上げました」
「なんだよそれ」
ふは、と彼が吹き出した。
「開けてもいい?」
「うん、見てみてよ!」
勿体ぶるように丁寧に封を解いていくあきくんの手が、自信作を早く見て欲しいなおにはじれったい。
最後の箱を開いた瞬間、あきくんの目は泳ぎ、そして顔は耳まで赤く染まった。
「……かわいい、かわいいけど!
 湯呑、だよな?」
「うん、敬老の日が近かったから、ワークショップやっててそこで作った!」
二個セットのそれは、片方にはでかでかと“あきくん♡”という文字が、もう片方には“なお”という文字が躍っている。
「相変わらず、めっちゃ絵上手い!
 筆で描いたんだよな、すっげー!」
「一発で描いたから緊張したけどね。
 中々上手く描けて、満足です」
頷くなおに、あきくんも頷き返した。
「はい」
なおと書かれたほうの湯飲みを箱から出すと、当たり前のように差し出す。
「え?」
なおは不思議そうに小首を傾げる。
「あきくんにあげたものだから、あきくんが持っていてよ」
「二つとも?」
「うん」
じっともう一度見つめると、ふわりと微笑んで彼は箱をしまった。
「万が一割ったらと思うと使えないけど……めちゃくちゃ嬉しい。
 ありがとな」
あきくんのその顔は、名前の通り秋のような心地よさをなおに与えた。
たまらずなおはその胸へと飛び込んだのだった。


< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
三つ子の真ん中。 眩しい姉と賢い妹に挟まれた私は、どこにでもいる“普通”だった。 それなのに、クラスの人気者・海(かい)は、なぜか私にだけ距離が近い。 からかわれて、笑って、流されそうになった昼休み―― ふと見えてしまった、彼のスマホの着信。 そこに表示された名前は、 かつて私が好きだった人の名前だった。 忘れたふりをしていた恋が、静かに動き出す。 地味で“ハズレ枠”の私が、 もう一度、誰かに選ばれるなんて思っていなかったのに。 恋と過去がすれ違いながら近づいていく、 じれったくて、やさしい青春ラブストーリー。
表紙を見る 表紙を閉じる
日高千秋×なお 中学二年で出会ってから、大学までずっと隣にいた二人。 「好き」がよくわからなかったなおと、彼女をずっと一途に想い続けた千秋は、長い遠回りの末、思いつきのようなスピードで結婚した。 子どもの頃からの夢を叶え、小学校教師と中学校教師として同じ私立学校で働く教師夫婦。 一緒に暮らして、一緒に働いて。 たくさん触れて、たくさん笑って。 幸せいっぱいの新婚生活――のはずが。 「……あたし、あきくんのこと縛っているよね」 “好き”がわかったら、今度は自分の愛し方がわからなくなった。 ちょっと重たくて、かなり一途。 そんな二人の結婚生活のお話です。
表紙を見る 表紙を閉じる
あなたがいる毎日が続くことを、ちっとも疑っていなかった。 誰かに「好き」と言われることが、苦手だった。 好意を向けられても、それが何を求めているのかよくわからない。 自分が誰かを特別に想うということも、よくわからなかった。 それでも、人との距離は少しずつ変わっていく。 ずっと同じ場所にいられるわけではない。 友だち、恋人、そしてその先。 名前を付けなければ、いつか失ってしまう関係もある。 「好き」がわからない彼女が、 自分の隣にいてほしい人を選ぶまでの物語。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop