月華嬢と黒月

第3話 「もう一度、会いたい」

―その日の夜。

街の明かりが少しずつ増えていく頃。

月華嬢のメンバーたちは、いつもの場所に集まっていた。

昼間とはまるで違う姿。

金色のウィッグ。

淡い水色のカラコン。

長いまつ毛。

そして、背中には大きく――

『月華嬢』

の文字。

その中心に立っているのは、もちろん麗愛だった。

「ねえ、凛空」

「んー?」

「今日さ、新しい少女漫画買ったんだけど!」

「また買ったの?」

「うん!」

麗愛は嬉しそうにカバンから漫画を取り出した。

「これ! 表紙からして絶対面白いやつ!」

「はいはい。どうせまたイケメンが出てきて騒ぐんでしょ」

「だって見てよ! この顔!」

「え、確かに顔はいい」

「でしょ!?」

二人で漫画を眺めていると――

「ねえ、それよりさ」

美月が突然、話に入ってきた。

「今日新しいリップ買ったんだけど、見る?」

「見る!!」

麗愛がすぐに反応する。

「どれどれ?」

「これ。新色なんだけど、めっちゃ可愛くない?」

美月がポーチからリップを取り出す。

「わあ……! ピンクベージュやん!」

「そう! れあ、こういう色好きそうだと思って」

「めっちゃ好き!」

「今度貸して〜!」

「いいよ。でもなくしたら怒るからね?」

「絶対なくさない!」

「ほんとに?」

「……たぶん」

「信用ないなあ(笑)」

みんなが笑う。

「そういえば、ひより最近ネイル変えた?」

「気づいた?」

ひよりが嬉しそうに手を見せる。

「昨日やったの。淡いピンクにしたんだ」

「かわいい!」

「麗愛も次これ系にしたら?」

「したい!」

麗愛は自分の爪を眺める。

「でも学校あるから、あんまり派手なのはできひんのよね」

「あー、それはそうか」

「じゃあ透明感あるピンクにしよ!」

「それいい!」

そんな話をしていると、今度はりあが口を開いた。

「……でさ」

「ん?」

「結局、昨日の彼氏から今日も連絡なかったんだけど」

「あ……」

空気が少しだけ変わる。

「また?」

「うん。まあ、いつものこと」

凛空は笑っている。

でも、麗愛にはその笑顔が少し無理しているように見えた。

「凛空……」

「大丈夫だって」

「ほんま?」

「ほんとほんと」

凛空は笑って、麗愛の頬を軽くつつく。

「それより、麗愛は?」

「え?」

「好きな人とかいないの?」

「い、いないよ!」

麗愛は即答した。

「ほんとに?」

「ほんと!」

「じゃあ、好きなタイプは?」

「えー……」

麗愛は少し考える。

「優しい人」

「普通(笑)」

「あと、ちゃんと大事にしてくれる人!」

「ほうほう」

「一緒にいて楽しい人がいい!」

「めっちゃ少女漫画のヒーローじゃん」

「だって理想やもん!」

「じゃあ顔は?」

「顔?」

「イケメンじゃなくてもいいの?」

「……できれば、かっこいいほうがいい」

「ほら!」

みんなが一斉に笑う。

「麗愛、結局顔じゃん!」

「違うもん!」

「絶対好きな人できたら顔から入るタイプだよ」

「そんなことないって!」

「じゃあ、芸能人で誰がタイプ?」

「えぇ……」

麗愛は真剣に考える。

「……いっぱいおる」

「ほら(笑)」

「だってかっこいい人はかっこいいやん!」

また笑い声が響く。

月華嬢は、今日も平和だった。

伝説と呼ばれているチームとは思えないほど。

コスメの話をして。

恋バナをして。

新しいネイルを見せ合って。

好きな服の話をして。

くだらないことで笑って。

そんな普通の女の子たちが集まっている。

麗愛は、この時間が大好きだった。

強くなりたいからここにいるんじゃない。

怖がられたいからでもない。

ただ――

この子たちと笑っていたい。

この場所を、ずっと守っていたい。

それだけだった。


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その頃――

少し離れた場所。

一台のバイクが静かに止まった。

黒月会のメンバーたちだった。

「昨日と同じ場所やな」

こうがが辺りを見渡す。

「……ああ」

蓮翔は、月華嬢の方を見る。

そして――

見つけた。

昨日の女の子。

金色の髪。

淡い水色の瞳。

仲間たちと笑っている。

「……いた」

「どれ?」

「……あの子」

蓮翔が視線を向ける。

こうがもそちらを見る。

「……ああ、昨日の子な」

「やっぱ可愛いな」

「昨日からそればっかやん」

「だって可愛いから」

蓮翔は、しばらくその姿を見つめていた。

昨日よりも、少しだけ知りたいと思った。

名前。

どんな子なのか。

何が好きなのか。

でも――

まだ話しかけるつもりはなかった。

ただ、もう一度会えたことが嬉しかった。


━━━━━━━━━━━━━━


「……?」

そのとき。

麗愛がふと顔を上げた。

何となく。

誰かに見られているような気がした。

「どうしたの?」

凛空が聞く。

「んーん」

麗愛は辺りを見回す。

「なんか、誰かいる気がした」

「月華嬢見に来た人じゃない?」

「そうかなあ」

麗愛は首を傾げる。

でも、すぐに笑った。

「まあいっか!」

「切り替え早(笑)」

「だって、せっかくみんなといるんやもん!」

「それもそうね」

また笑い声が響く。

月明かりの下。

少女たちは今日も笑っている。

その少し離れた場所には――

彼女に一目惚れした少年がいた。

けれど。

まだ二人は、お互いのことを何も知らない。

ただ同じ夜の中にいる。

それだけだった。
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