月華嬢と黒月

第4話「気になる、あの子」



――翌朝。

聖月学園。

朝の教室は、いつものように賑やかだった。

「麗愛、おはよー!」

「凛空、おはよ〜!」

麗愛は笑顔で凛空の隣に並ぶ。

「昨日の夜さ、何してた?」

「漫画読んでた!」

「また?」

「うん! 昨日買ったやつ、夜に読もうと思ってたのに、気づいたら寝ちゃってて……」

「それ、昨日の夜に読んでないじゃん(笑)」

「そうなの!」

二人で笑いながら教室へ入る。

麗愛は自分の席に鞄を置くと、窓の外を眺めた。

今日もいい天気。

授業が終わったら、凛空とカフェに行く予定。

「今日の放課後、楽しみやなぁ」

「新しくできたカフェでしょ?」

「そう! 期間限定のケーキあるんやって!」

「麗愛、絶対それ頼むじゃん」

「もちろん!」

朝からそんな話をしていると――

教室の後ろの方から、女子たちの声が聞こえてきた。

「黒崎くん、おはよ!」

「今日もかっこいいね」

「昨日も誰かに告白されたんでしょ?」

「えー、また?」

その中心にいるのは、黒崎蓮翔。

今日も何人もの女子に囲まれている。

「おはよ」

「うん」

「まあ、いつものことやろ」

蓮翔は慣れた様子で返している。

騒ぐこともない。

照れることもない。

ただ、いつも通りクールだった。

その様子を見ていた凛空が、

「……すごいね」

「何が?」

「黒崎くん」

「?」

「朝からあんな囲まれてる」

麗愛もちらっとそちらを見る。

「ほんまや」

「毎日あんな感じなのかな」

「すごいなぁ……」

麗愛はそれ以上気にすることなく、凛空との話に戻った。

「ねえ、カフェ何時に行く?」

「授業終わってすぐ!」

「楽しみ〜!」

その会話を、少し離れた場所で蓮翔が聞いていた。

――そのとき。

ふと、麗愛の方へ視線を向ける。

黒い髪。

柔らかい笑顔。

友達と楽しそうに話している姿。

「……」

蓮翔は、ほんの少しだけ目を細めた。

――なんやろ。

どこかで見たような。

昨日の夜。

月華嬢の中にいた、あの女の子。

金色の髪。

淡い水色の瞳。

笑ったときの雰囲気。

「……」

目の前の女の子と、昨日の子。

全然違う。

髪も違う。

目の色も違う。

服装だって、何もかも違う。

「……いや」

蓮翔は小さく笑った。

「んなわけないやろ」

そんな偶然、あるわけがない。

そう思って、視線を戻す。

なのに――

なぜか、頭の片隅に残った。

「……なんか似てる気がするんよな」

自分でもよく分からない。

ただ、少しだけ気になった。


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――放課後。

「麗愛、行こ!」

「うん!」

授業が終わると、麗愛と凛空は学校を出た。

今日は二人でカフェ。

駅の近くにある、最近できた人気のお店だ。

「わぁ……!」

店内に入った瞬間、麗愛の目が輝く。

淡い色のインテリア。

可愛い照明。

ショーケースには、色とりどりのケーキ。

「かわいい〜!」

「麗愛、絶対好きだと思った(笑)」

「全部食べたい……」

「さすがに無理(笑)」

二人で席に座る。

メニューを開く。

「どうしよう……」

「限定のケーキじゃないの?」

「それは絶対頼む!」

「じゃあ私はこれにしよ」

「飲み物は?」

「私はカフェラテ」

「麗愛は?」

「いちごミルク!」

「やっぱり(笑)」

注文を終えると、二人は顔を見合わせる。

「……でさ」

凛空がニヤッと笑った。

「なに?」

「恋バナしよ」

「えっ」

麗愛の目が輝く。

「恋バナ!?」

「好きでしょ?」

「大好き!」

「じゃあ質問」

「うん!」

凛空が少し考える。

「麗愛って、どんな人と付き合いたい?」

「えー……」

麗愛は真剣に考える。

「優しい人!」

「またそれ(笑)」

「だって大事やん!」

「他には?」

「一緒にいて楽しい人」

「うんうん」

「あと……」

麗愛は少し考えてから、

「麗愛の嫌なことしない人」

「へえ」

「あと、嘘つかない人!」

「それは大事」

「それから……」

「まだあるの?」

「ある!」

麗愛は指を折りながら話す。

「ちゃんと話を聞いてくれる人」

「うん」

「一緒にいっぱい笑える人」

「うんうん」

「あと……」

「まだあるんかい(笑)」

「顔も、できればかっこいい人がいい」

「出た(笑)」

「だって!」

麗愛が頬を膨らませる。

「少女漫画の男の子って、みんなかっこいいんやもん!」

「現実と漫画を一緒にしちゃダメですよー」

「分かってるもん!」

二人で笑う。

運ばれてきたケーキを見て、麗愛はさらに嬉しそうな顔をした。

「かわいい……!」

「写真撮る?」

「撮る!」

スマホを取り出す。

ケーキをいろんな角度から撮る。

「こっちの方が可愛くない?」

「ほんとだ!」

「待って、麗愛の手も入れて」

「こう?」

「そう!」

写真を撮りながら、二人はまた笑った。


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「そういえば、凛空は?」

「ん?」

「どんな人が好きなん?」

凛空の手が止まる。

「私?」

「うん」

「……分かんない」

「え?」

「今まで付き合った人って、好きなタイプとか考える前に付き合ってたから」

「そうなん?」

「うん」

凛空はストローをくるくる回す。

「でも、次に好きになるなら……」

「うん」

「ちゃんと私のこと見てくれる人がいいかも」

「……」

麗愛は少しだけ嬉しそうに笑った。

「じゃあ、凛空にもいつかそんな人できるといいね」

「私は凛空のこと大切にしてくれる人じゃなきゃ嫌だ。私より凛空への愛が強い人がいい。」

「……麗愛」

「ん?」

「ほんと、そういうところ好き」

「えへへ」

二人は顔を見合わせて笑った。

「麗愛も、いつか絶対いい人見つけなよ」

「うん!」

「ダメな人選んだら凛空が怒るからね」

そう言いながら2人で笑った

「約束ね」

「約束!」


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その頃。

聖月学園では――

「蓮翔、帰らへんの?」

こうがが声をかける。

「ん?」

「さっきから何ぼーっとしてんの?」

「別に」

「ふーん」

こうがが蓮翔の視線の先を見る。

そこには、もう誰もいない。

「……誰見てたん?」

「誰も見てへん」

「はいはい」

蓮翔は鞄を持ち上げる。

「帰るぞ」

「おう」

歩き出しながら、蓮翔はふと思う。

昼間の黒髪の女の子。

そして――

昨日の夜の、金色の髪の女の子。

「……似てるんよな」

「何が?」

「いや」

蓮翔は首を振る。

「なんでもない」

――んなわけない。

そう思っている。

でも。

なぜか、少しだけ気になる。


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――その夜。

月華嬢。

「ねえ、麗愛!」

「ん?」

「今日新しいリップ買ったんだけど、見て!しかも新作〜」

「え、かわいい!」

「でしょ?」

「色めっちゃ好き!」

「麗愛も使ってみる?」

「いいの?」

「うん!」

「やった!」

今日も女の子たちの笑い声が響く。

コスメ。

ネイル。

恋バナ。

新作スイーツ。

くだらない話。

そんな普通の時間。

その中心で笑っている麗愛を――

少し離れた場所から、蓮翔が見つめていた。

「……」

やっぱり。

昨日の子だ。

金色の髪。

淡い水色の瞳。

月華嬢の特攻服。

間違いない。

蓮翔はそう思いながら、麗愛を見ていた。

そしてふと――

昼間の黒髪の女の子が頭をよぎる。

「……」

似ている。

笑ったときの雰囲気。

目元。

声……は、まだちゃんと聞いていない。

「……いや」

蓮翔は小さく笑った。

「んなわけないやろ」

さすがに、そんな偶然あるわけがない。

そう思うのに。

「……でも」

もう一度、麗愛を見る。

「なんか、気になるな」

まだ、確信はない。

ただ――

昼と夜。

まるで違う二人の女の子が、

なぜか少しだけ重なって見えた。

その違和感だけが――

蓮翔の中に、静かに残っていた。
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