死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

さよならと約束

 ハルニレがこの村に来てから半年が経った頃。
 明日はうちの神社で近隣の村の神職者による集会があるため、食事の仕込みで炊事場はてんてこ舞いだ。トキさん、ツルさんを始めとした奉公人の面々が右へ左へ忙しなく駆け回っている。

 そんな喧騒の中に、ハルニレの姿もあった。

「トキさん、それ、手伝う……ます」
「助かるわ。これ重たくって、腰にくるの」

 トキさんが奮闘していた漬物石を、代わりにハルニレの細腕が持ち上げている。まだまだひょろっこいけれど、ここに来た当初より、随分たくましくなったみたいだ。

「おーいハル坊! こっちも頼むわー」
 初めはハルニレを預かることに否定的だったツルさんは、今ではすっかり彼がお気に入りだ。いわく、「あたしには娘しかいないけど、こんな可愛い息子が欲しかった」とのこと。

 屋敷内がこれだけバタついていると、私達巫女一家も勿論準備の戦力として数えられる。お父様は会場となる大広間のセッティングの指示出しに精を出し、お母様は明日の来訪客の確認など事務作業に追われている。

 私と妹のせりなは、台所の隣の間で、神事に使う道具を清める作業を担当中だ。

「せりな、そっち手伝おうか?」
「いいえ結構です……お姉様」

 せりなは、廊下越しに台所の様子を見遣ると、わずかに眉を細めた。

「いくらお父様から許可が降りているとは言え、野蛮な異邦人に神事の手伝いをさせるというのはどうなのでしょう」

 実直で真面目な性格のせりなは、神主である父親を尊敬(妄信)していて、お父様同様、ハルニレの存在を煙たがっていた。私は、そんな妹を諭すように言った。

「まあまあ、人手が足りないんだからいいじゃない。言われているのは、「境内に入るな」ということだけだもの。それに、彼は野蛮な悪魔なんかじゃないわ。半年かけて、色々なことをみっちり勉強したんだから」
「半年……お姉さまは一体いつまで、あの少年の面倒を見るおつもりなの?」
「あら、言ってなかった? 明日の夕方までだよ。明日の夜にはもう、行商団の出港が決まっているから」
「それを聞いて心から安心しました」

(……せりなってば、昔は「お姉ちゃん大好き」って私にべったりで、本当に可愛かったのになぁ)

 妹のツンと澄ました横顔を覗き見る。

「……なにか?」
「べつにー」

 今ではすっかりお父様二号だ。
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