死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
夕暮れ時になると寺子屋はお開きだ。ハルニレは、夜になるとトキさん達奉公人の宿舎で寝泊まりしている。トキさん達に負担をかけるのは申し訳なくて、私の部屋に泊めることも提案したのだけど、なぜかハルニレに断固拒否されてしまった。
そういうわけで、トキさん達への申し送りも兼ねて、宿舎までハルニレを見送るのが日々のルーティンなのだった。
「ハルニレは、大きくなったら何になりたいの?」
隣を歩くハルニレに尋ねると、彼は表情を曇らせた。
「お昼にも言ったけど……僕は異国人だから、そういうことは考えられないよ」
「またそんなこと言って」
「「異邦人」が就ける仕事は、この国では限られてる。……でしょ?」
そうかもしれないけど。——この年頃の子が、夢も見られないなんて。
私に出来るのはせいぜい、この子に教養と、一時凌ぎの居場所を与えるだけのこと。行商団が村を立つ日が来れば、ハルニレはまた彼らの元へ戻らなくてはならない。一生私が面倒を見られるわけじゃないのだから、無責任な励ましの言葉なんてかけられない。突き付けられた現実に、私は何も言えなくなり、歩みを進める両足も重くなる。
「……」
「でも、強いて言うなら」
一歩先を進んだハルニレが、背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。
「……なずなを守れるくらい、強い人になりたい」
「え……」
不意を突かれて、私は不覚にもドキッとしてしまった。前世でも今世でも、異性にこんなこと言われたのは初めてだった。……まあ、相手は子供だけど。
振り返ったハルニレの表情はいつものクールな無表情だったけど、瞳がまっすぐ澄んでいる。どうやら、冗談とかでもないらしい。
(……やばい、顔が熱くなってきたかも)
私は顔をパタパタ仰ぎ、殊更に明るい声を作った。
「あはは、ありがと! でも私を守るなら、もっと頑張らないといけないわね? 昨日、なずなさんに腕相撲で負けてたもんねえ」
「あ……あれは手加減しただけ!」
ハルニレが小さく狼狽える。
夕焼けの茜色が私の上気した頬の色を隠し、私はこっそり神様に感謝した。
そういうわけで、トキさん達への申し送りも兼ねて、宿舎までハルニレを見送るのが日々のルーティンなのだった。
「ハルニレは、大きくなったら何になりたいの?」
隣を歩くハルニレに尋ねると、彼は表情を曇らせた。
「お昼にも言ったけど……僕は異国人だから、そういうことは考えられないよ」
「またそんなこと言って」
「「異邦人」が就ける仕事は、この国では限られてる。……でしょ?」
そうかもしれないけど。——この年頃の子が、夢も見られないなんて。
私に出来るのはせいぜい、この子に教養と、一時凌ぎの居場所を与えるだけのこと。行商団が村を立つ日が来れば、ハルニレはまた彼らの元へ戻らなくてはならない。一生私が面倒を見られるわけじゃないのだから、無責任な励ましの言葉なんてかけられない。突き付けられた現実に、私は何も言えなくなり、歩みを進める両足も重くなる。
「……」
「でも、強いて言うなら」
一歩先を進んだハルニレが、背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。
「……なずなを守れるくらい、強い人になりたい」
「え……」
不意を突かれて、私は不覚にもドキッとしてしまった。前世でも今世でも、異性にこんなこと言われたのは初めてだった。……まあ、相手は子供だけど。
振り返ったハルニレの表情はいつものクールな無表情だったけど、瞳がまっすぐ澄んでいる。どうやら、冗談とかでもないらしい。
(……やばい、顔が熱くなってきたかも)
私は顔をパタパタ仰ぎ、殊更に明るい声を作った。
「あはは、ありがと! でも私を守るなら、もっと頑張らないといけないわね? 昨日、なずなさんに腕相撲で負けてたもんねえ」
「あ……あれは手加減しただけ!」
ハルニレが小さく狼狽える。
夕焼けの茜色が私の上気した頬の色を隠し、私はこっそり神様に感謝した。