死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

不吉な足音

 乾燥させておいたヨモギとドクダミを、すり鉢で擦り潰す。そこに『癒しの力』を少し注ぎ込む。これで特製の傷薬の出来上がりだ。私は額の汗を手の甲で拭った。

「……よし、こんなものかしら」
「精が出ますね、なずな様」
 皿を洗いながら、トキさんが微笑む。
「うん。久しぶりのお加持(かじ)だからね」

 そう——今日は久しぶりに村でのお勤めだ。
 

 表に出ると、神社の裏の丘の桜は、すっかり葉を秋色に変えていた。
 昨日までのハルニレとの日々を思い出すと、心にぽっかり穴が空いたような気分になる。

(「——大人になったら、迎えに行く」)
 
(あれ、本気だったのかな……?)

 熱い手のひらを思い出す。
 しょせんは子供の言うこと。あまり真正面から捉えるべきではない。
 けれど、今はあの言葉に縋っていたかった。また会える日が来るんだって、思っていたい。

(何にしても、私がくよくよしていては、ハルニレに合わせる顔がない……よね)
 
「よしっ」

 頬を叩いて、気合を入れる。


「こんにちは! 作蔵爺さま、お加減どうですか?」
「おお、巫女様」

 茅葺屋根の屋敷に顔を覗かせると、農家の作蔵爺さまが恵比寿顔で迎えてくれた。

「畑で、腰を痛めてしまってね。最近はよくなってきていたと思ったんだが……あいててて」
「まあ……ちょっと拝見いたしますわ」
「頼みますよ」
「楽にしてくださいね」

 作蔵爺さまの腰に手を翳し、手のひらに神経を集中させると、じわ……とほのかなあかりが灯る。作蔵爺さまは目を細めた。

「……おお……」

 作蔵爺さまは立ち上がり、一度しゃがみ、また立ち上がり、腰をトントンと拳でたたき——それから目を大きく見開いた。

「全く痛くない。いやあ、いつ見ても素晴らしい! まさに奇跡の力だねえ」
「膏薬(こうやく)もお持ちしましたから、こちらをしばらくの間、毎日患部に塗りつけるようにしてください」
「ああ、ありがとう。巫女様の薬はよう効くから、助かります」
「お役に立てて嬉しいですわ」

 患者さんの笑顔にはいつも心が洗われる思いだ。癒しの力の使用は疲れるけれど、この笑顔が見られるならば安い対価だと思う。私の力がこうして誰かの役に立てることが何より嬉しい。前世では誰にも期待なんてされなかったから、尚更だ。

 心地よい疲労感を感じていた私は、次の瞬間、通り魔的な暴言に襲われるとは思ってもいなかった。

「……あんな力、気味が悪い」
「本当に。何でもお見通しみたいな顔をして……」

(……え?)
 
 ひそひそと耳打ちしているのは、農家の老夫婦だった。——空耳? いや、でも今、確実に目があったよね。

(何……?)
 
 村でこんなにあからさまな悪意を向けられるのは初めてのこと。いきなり心臓へ冷たいナイフを当てられたみたいな気分になる。こういうのには前世で慣れっこなはずなのに、突然のことすぎて、頭がついてこない。

 私は逃げるように、その場を立ち去るのだった。
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