死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「わたしは……どうやら恋をしてしまったんです」
お小夜さんが悩ましいため息をついた。
参拝に来た村人たちの愚痴や悩みを聞くのも巫女の仕事。
今日の相談者は村の庄屋の娘であるお小夜さんだ。境内のお茶所で向き合う彼女の顔は真剣そのもの。
「——それで、お相手は?」
私は思わず身を乗り出す。
思い悩んでいるお小夜さんには言えないけれど、恋愛相談は私の大好物だ。伊達に転生前はネットで恋愛コミックを読み漁っていない。
「それが……ひと月前から村に滞在し、道具の修理を請け負っている旅の大工の方でして。とても腕がいい職人なんです」
お小夜さんが頬を染める。
「彼はいつか村を出る身。一方、わたしには隣の村に婚約者がいて、いずれ嫁ぐことが決まっているんです」
なるほど——身分が違う「流浪の職人」への秘めた恋、というわけだ。
「この恋は、諦めるしかないですよね……」
「そんなことはありません……!」
私は拳を握り、声に力を込めた。
「神様は、誰かを愛しく思う温かな気持ちを決して責めたりいたしません。自分の気持ちを偽って嫁ぐより、一度素直な気持ちを伝えてみては? どんな結末になろうとも、きっと、この恋はあなたを強く優しくしてくれるはず」
「まあ……」
お小夜さんが、瞳をパチパチさせて私を見つめている。
「なずな様ってなんだか、十六歳には思えません。言葉の中に、年上のお姉さんみたいな説得力があるというか……」
(考えてみれば……人生二周目で、十六歳を二回生きている私って、実質アラサーなのかも)
「あはは……それはほら、神巫家の巫女ですから」
ここは、笑って誤魔化しておく。
(それにしても……身分違いの恋、かぁ。ちょっと憧れちゃうな)
ふいにハルニレの顔を思い出してしまい、私は首をぶんぶんと振った。
(やだ、どうしてあの子が出てくるのよ)
結婚なんて言われたせいで、変に意識してしまう。……駄目駄目、今はお小夜さんの相談に集中しよう。
恋愛相談は恙無く終わり、お小夜さんが晴れ晴れした顔で茶所を辞した後、にわかに表が騒がしくなる。
「ちょ、ちょっとお役人様、どちらへ……!」
「そちらは土足厳禁ですぞ……!」
——何の騒ぎだろう。お客様かな?