死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

裏切りの罠

 先日のお加持(かじ)は村でのお勤めだったけれど、時折患者さんの方から神社に訪ねてくることがある。

「あの……」

 お茶所へ、農家のお嫁さんらしき若い女性が遠慮がちに顔を出した。見れば、背中に二歳くらいの女の子をおぶさっている。熟れた果実のように顔を赤くし、はぁはぁと熱の籠った息を吐く様子は、見ていて胸が痛くなる。

「実は、うちの子が三日間も高熱が続いてまして。診ていただくことはできますか?」

 うん——断る理由がない。私は腕まくりして、女性に応えた。

「もちろんです。……では、こちらへ」

 茣蓙(ござ)に寝かされた女の子の額にそっと触れると、手のひらに精神を集中させ、体内に満ちる清浄な力を女の子に向けて放出した。お茶所が温かい光で満たされる。女の子の顔色が、みるみる林檎色から桜色に変わっていった。

「ん……」

 女の子の顔から苦悶の色が消え、その瞳がゆっくりと開かれる。若いお母さんがたまらず女の子を抱きしめた。

「ああ……すず……! よかった……!」

 若い女性は、涙を拭いながら私に向き直った。

「巫女様……! なんとお礼を申し上げたらいいか……!」

「今は一時的に熱は下がっていますが、またぶり返すかもしれません。熱冷ましのお薬を出しますので、体調に応じて飲ませてあげて下さいね」

 術の反動で視界が揺れるが、悟られないよう笑顔を浮かべて、解熱剤を薬箱から取り出す。若い女性は恐縮そうに何度も何度も会釈を繰り返す。その瞳に安堵の涙が浮かんでいるのを見て、私の胸もじんと熱くなった。


 一日に複数の患者が訪れることも、ごくたまーにある。この日は、そのレアケースに当てはまった。
 
 親子と入れ替わりで、お茶所に現れたのは——不吉な客人だった。

「巫女様! 助けてください……!」

「……っ?」

 私は思わず目を覆った。

「助けて……熱くて死にそうだ」

 それは、右の頬と腕が赤く爛れた痩身の男性。顔だけ見ればお父様と同じくらいの年齢のようだけど、八割以上白くなった頭髪が彼を随分老いた印象にしている。青白い顔には生気が感じられず、目つきが何だかおぼつかない。こちらを見ているようで、どこも見ていないような視線が少し怖い。
 
「どうなさったのです? そのお怪我は……」

 近くで見ると、爛れた頬と腕は酷い火傷のようである。包帯を当て、簡単な処置はされているようだが、いかんせん症状が重い。
 
「火傷が痛み、夜も眠れません。気が狂いそうだ。どうか助けてください……」

 懇願する男性の表情は痛みで歪み、焦点の定まらない両目のふちには涙が白い跡を作っている。見ているだけでこちらにも痛みが伝わってくるくらい、酷い状態だ。この人の言う通り、早く治してあげないと——。
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