死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「昨日境内に不審者の目撃情報があったのは知っていたけれど……まさかそんな恐ろしいことが……」
トキさんに席を外してもらい、私が放火犯との一部始終をお母様に伝えると、彼女はひどく悲しそうな顔をした。お母様は、私以上に人間の善良性を信じているピュアな女性なのだ。
「なずな、あなたのしたことは立派よ。例え、相手に思いが伝わらなかったとて、自分の行いに自信を持ちなさい」
お母様は私を励ますように優しく肩を叩いた。彼女はいつでも私を理解し包み込んでくれる。
「このことは、お父様から奉行所に説明してもらうようにお願いしましょう。これで、行商団に掛けられた疑いも晴れるはず。あなたはまだ体が辛いだろうから、お父様には私から伝えておくわね」
「ありがとうございます」
不覚にもちょっと泣きそうになってしまって、お母様大好きと口に出す代わりに、ぎゅっとハグをする。私は本当に幸せ者だ。
「なあに、甘えん坊ねえ」と私の頭を撫でるお母様だったが、弱気を見せた私になにを思ったか、ふいにその表情を曇らせた。
「……ねえ、なずな」
彼女の声が意味ありげに潜められる。
「こんな時に妙なことを訊くようで申し訳ないのだけれど……」
「……え?」
「この頃、神官や村人の中に、あなたへおかしな態度をとる者がいなかった?」
「どうしてですか……?」
先日の村での出来ごとを思い出し、ドキッとする。農家の夫婦から突然吐かれた悪態。あの時のことは誰にも言っていないはずだけど……。胸が騒ついた。
「……実は近頃、私達の神社のやり方に反発的な一派がいるの。彼らは神社が異邦人を庇い立てしたことへ特に不信感を抱いていて……」
お母様が言葉を濁らせた時、廊下の先から騒がしい足音がした。
「奥様! なずな様! 大変です!」
「トキ、ツル、何事ですか」
肩で息をした二人は、顔を青くして捲し立てる。
「本殿の方で、不審な男が騒ぎを起こしています」
「その男が妙なことを訴えているんです——何やら、なずな様の指示で倉庫に火を放ったとか」
私達は顔を見合わせた。
トキさんに席を外してもらい、私が放火犯との一部始終をお母様に伝えると、彼女はひどく悲しそうな顔をした。お母様は、私以上に人間の善良性を信じているピュアな女性なのだ。
「なずな、あなたのしたことは立派よ。例え、相手に思いが伝わらなかったとて、自分の行いに自信を持ちなさい」
お母様は私を励ますように優しく肩を叩いた。彼女はいつでも私を理解し包み込んでくれる。
「このことは、お父様から奉行所に説明してもらうようにお願いしましょう。これで、行商団に掛けられた疑いも晴れるはず。あなたはまだ体が辛いだろうから、お父様には私から伝えておくわね」
「ありがとうございます」
不覚にもちょっと泣きそうになってしまって、お母様大好きと口に出す代わりに、ぎゅっとハグをする。私は本当に幸せ者だ。
「なあに、甘えん坊ねえ」と私の頭を撫でるお母様だったが、弱気を見せた私になにを思ったか、ふいにその表情を曇らせた。
「……ねえ、なずな」
彼女の声が意味ありげに潜められる。
「こんな時に妙なことを訊くようで申し訳ないのだけれど……」
「……え?」
「この頃、神官や村人の中に、あなたへおかしな態度をとる者がいなかった?」
「どうしてですか……?」
先日の村での出来ごとを思い出し、ドキッとする。農家の夫婦から突然吐かれた悪態。あの時のことは誰にも言っていないはずだけど……。胸が騒ついた。
「……実は近頃、私達の神社のやり方に反発的な一派がいるの。彼らは神社が異邦人を庇い立てしたことへ特に不信感を抱いていて……」
お母様が言葉を濁らせた時、廊下の先から騒がしい足音がした。
「奥様! なずな様! 大変です!」
「トキ、ツル、何事ですか」
肩で息をした二人は、顔を青くして捲し立てる。
「本殿の方で、不審な男が騒ぎを起こしています」
「その男が妙なことを訴えているんです——何やら、なずな様の指示で倉庫に火を放ったとか」
私達は顔を見合わせた。