死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
 鷹取さんの視線を追うと、お父様が観衆の間を縫い、こちらに歩み寄るのが見える。私とお母様の前に躍り出ると、腕を組み立ちすくむ。その口元は厳しく結ばれたままだ。
 
「あなた……どうにかして。どうして黙ってるの。もしや、あなたまでなずなを疑っているんじゃ」

「重要なのは虚実ではない」

 眉根を寄せたまま、お母様と私を順に睨む。

「問題は、ここにいる者の半数がなずなに猜疑心を抱いているということ。このままでは神社の威信は保たれない」

「あなた……!? 何を言って……」

「お役人様! 私には、巫女に操られ火を放ったという証拠があります!」

 白髪の男が一層大きな声を張り上げ、鷹取さんは興味深げに目を見開く。

「——ほう?」

「巫女は、放火した倉庫から金品の強奪を命じた。外国の技術で作られた装飾品。巫女の所持品を改めたら出てくるはずだ、青い宝石の胸飾りが!」

「……っ?」

 それは紛れもなく、今も枕元に置かれたペンダントのことだろう。私は息が吸えなくなる。

 鷹取さんがこちらに向き直り、問い詰めるような視線を投げた。

「巫女様、お心当たりは?」

「ま、待って……! あれは、治療を終えた後この方が私に投げつけて……!」

「——あるようだな」

 鷹取さんが何事か部下に命じ、命じられた者がいずこかへ走っていく。
 白髪の男性が唇を三日月の形にして笑む。それは無言の勝利宣言に等しかった。

 何もかもが、予定されていた罠だったんだ。この放火犯は最初からこうするつもりで……。

 ——私は気付いてしまった。

 いつの間にか最悪のシナリオが組み立てられていて、私はすでにそこから逃げ出す術を失っているということに。
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