死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
 後日、予想していた形とは大きく異なるものの、やっぱりというかなんというか、私は再び奉行所の門を潜るハメになった。
 神経質に敷き詰められた硬質な砂利は、審判場の潔癖さを体現しているみたいでどこか息苦しい。
 
(なんでこんなことに……)
 
 ——現状。私の手首は後ろ手に鎖で縛り付けられていて、上座に向かってへへーっと平伏している。ここは審判の場だって聞いていたけれど、これじゃあまるで……

(完全に重罪人扱いだよね……)

 砂利敷きのお白州(しらす)にひざまづいている私。そしてその隣には、白髪の男性——本当の放火犯が平伏している。時折、演技がかった様子で、こちらを怯えた目で見てくる。くっ、私からするとあなたのその神経の方が怖いんですけど……。
 
 そして、お白州を濡れ縁から猛禽類の双眸で見下ろすのは、火付盗賊改の同心・鷹取勘兵衛だ。傍には十手を備えている。
 相変わらず、あのお役人様の目線には交わるだけでこっちを萎縮させる凄みがある。今日はこの位置関係も相まって、彼の存在が閻魔様かなにかに見えてくる。

(戦わなきゃ。ちゃんと弁明しなきゃ。このままじゃ私、犯罪者になって処刑されちゃう)

 そう思う一方、緊張で汗が止まらない。

(こんな時、おばあちゃんならどうする……?)
 
「世の中は狡くて厳しいけれど、まっすぐ生きていれば、味方になってくれる人が必ずいる」とおばあちゃんはいつも言っていた。

 お白州の片隅に設けられた観覧席へ視線を飛ばす。お父様はこちらと目を合わせようともせず、厳格な面持ちで平伏している。お母様がその隣で白い顔をしていた。

 この中で、私の一番の味方は間違いなくお母様だろう。お母様は真実を知っているし、本殿での騒動の時も私を庇ってくれた。

(そうだ……私は一人じゃない。落ち着いて、もう一度ちゃんと説明しよう)
 

 奉行所の役人たちがお取り調べの棒の音を鳴らし、いよいよ審判が開始される。

「この度、港町で放火事件が勃発した。その件について、当初、目撃者は『異邦人が火をつけたのを見た』と語ったが、実際に火をつけたのは、そこの商人の男——煉助(れんすけ)であると、本人の自供により判明した。煉助、間違いないな」

「……はい」

「さらに、煉助の証言によれば、犯行はそこの巫女——なずなの妖術で操られ、自らの意思に反して行ったものであり、犯行時の記憶は一切ない——そうだな」

「間違いございません」

「ま、待って下さい……!」

 恐るおそる顔を上げ、お役人様の鷹の目を見据える。

「この前も申し上げましたけれど、私は妖術など使っていません! この方の火傷を治しただけです……!」

「黙れ、異端の巫女」

 私の主張はお役人様により乱暴に一蹴される。

「……っ」
 
 その態度で私は悟った。

(お役人様にとっては真実なんてどうでもいいんだ……)

 この人は、犯人を迅速に処理し、なおかつ「不吉な異端」を処罰したという実績が欲しいんだ。こじつけだって、なんだって構わないんだろう。結果、民衆の溜飲が下がりさえすれば。当初、たったひとつの目撃談を根拠に、行商団を吊し上げようとしていたのが何よりの証拠だ。
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