死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

十年の時を超える傷痕

 水の底がこんなに静かだなんて知らなかった。静かすぎて、頭の中の声が大きく響いて私を捉えて離さない。


(——どうして私がこんな目に、私が何をしたって言うの)
 
(寒い、苦しい)

(息が出来ない)

(誰か——助けて)




「……ごほっ!」
 
 げほ、げほ、と私は激しく咳き込んだ。

 ワンテンポ遅れて気が付く。あれ——息、吸えてる。

 みっともないくらいの貪欲さで空気を繰り返し繰り返し吸い込むと、白く靄のかかった脳に、新鮮な酸素が送り込まれていくのがわかる。私は多少の冷静さを取り戻す。

 見渡すと、表面がささくれだった色褪せた畳の上、ポツンと敷かれた布団の中に私は横たわっていた。湿った木と土のにおい。屋根を叩く雨の音。六畳の室内にあるのは継ぎはぎの布団とヒビの入った全身鏡のみ。見覚えのない、寂しい場所。

 ——もしかして、二度目の転生?

 傍らの全身鏡を慌てて覗き込むと、そこにはよく見る顔が映っていた。
 これは、まだなずなの人生のようだ。

(でも、なずなは死んだはずじゃ……?)
 
「痛ぅ……っ」

 突然、頭を殴られたかのような激痛が走った。
 
 あれ——なずなはどうして死んだんだっけ?
 記憶を辿ろうとすると、なぜか頭に霞がかかる。
 
 なずなは幸せな人生を送っていたはずだ。嫌われ者だった前世——春菜とは違い、巫女の一族に生まれたなずなは、癒しの力という特別な能力を生まれ持って授かり、周囲に愛されてきたはず。家族も奉公人も、村のみんなも優しくって……

 そこで私は違和感を覚える。 ——どうして? なずなの人生の登場人物の顔を、誰一人思い出せないのは。

 まあいいや。まだ少し寝ぼけているのかも。若年性痴呆じゃないことだけは確かね。うん。そうだと信じたい。

 とりあえず、私はなぜか死ななかったとして、問題はここがどこかってことだ。
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