死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「あの……ここはどこですか?」
「……」
「あなたは誰?」
「……」
土間で助けられ、布団の上に戻された私は、この屋敷の主人らしき青年に問いかけているけれど、さっきから返事がない。
どことなく翳のある「異邦人」の青年。傍らの、表情のない美貌をちらりと見上げる。
(この人、何を考えているのかわかりにくいな……)
土間では助けてくれたし、こちらに危害を加えようとしているようには見えないけど……。
「……君はこの近くの村の泉で死にかけていた」
やっと答えてくれた。
「えっと……あなたは見ず知らずの私のことを介抱してくれたんですね」
「ありがとうございます」と枕の上で軽く首を傾けると、なぜか青年の顔が曇ったように見えた。
「……」
「あ、あの?」
「あ……いや」
青年はふいと顔を背けた。
「……別に感謝されるほどのことでもない。偶然通りかかっただけだ」
「そんなことないですわ」
おかげで私は助かったんですから、と言おうとして、喉が突っかかった。
——どうせなら、そのまま死なせてくれればよかったのに……
(……え?)
ふと頭に浮かんだ声を、首を振って吹き飛ばす。
——今のは何? 少し眩暈がする。
額を抑えていると、青年が難しい顔でこちらを見た。
「もうしばらくこの家で療養した方がいい。見たところ、君の体調はまだ不安定だ」
「すみません……ありがとうございます」
申し訳ないけれど、今はお言葉に甘えらせてもらおう。少し休めば、もとどおり動けるようになるはずだ。重い瞼に抗えず、私の意識は再び溶けていく……。
*
ところが一週間が経ち半月が経ち、ついにはひと月が経過しても、体調は回復せず、私は毎日を布団の上で無為に過ごすことになる。熱はないものの、全身が鉛のように重く、起きあがろうとすれば眩暈に襲われ、厠に向かうだけで息切れがする。
(私……どうしちゃったんだろう)
数日経っても、欠けた記憶が戻る気配もなく、私は焦っていた。
すっかり見慣れてしまった天井の木目をひたすら眺めるうち、日が登り、夕暮れが訪れ、日が落ち、また日が登る。窓の外で乾いた木々が揺れる音と、ふくら雀の囀る声をじっと聴く毎日。
この間、生活の世話は全てあの青年に甘えきり。日々のお薬も、私のためにわざわざ調合してくれていた。
(早く元気にならなくちゃ。いつまでもここで迷惑をかけるわけにはいかないもの)
いくら親切な人だとしても人の善意は有限だ。お荷物でしかない私をいつまでも置いてくれると楽観視できるほど私は能天気じゃない。