死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
その日は、食欲を取り戻した私のために、青年が食事を拵え、持ってきてくれた。
「この国の粥……というのを、再現したつもりだけど、どうだろう」
差し出されたのは湯気のたったお椀。
お椀の中では、米が白く輝き、アクセントの梅が食欲をそそる。このところ、薬と白湯だけで生きていた私にとってはご馳走だ。
「いただきます」
木の匙でひと口掬って舌に載せると、まず鰹出汁の芳醇な香り、次に梅の酸味が広がる。そして最後に……なにか漢方薬のような苦味が口内に襲来した。
(——ん?? これは……)
まずくはない。まずくはないけど……。
私の目が点になる。
「……これ、何が入ってるんですか?」
恐るおそる聞くと、青年が大真面目に答える。
「米、塩、鰹節、梅干し、女郎花」
「……あの、最後の女郎花がすごい自己主張しちゃってます……」
「そうなのか……」
青年は無表情だが、ほんの少し肩を落として、がっかりしているように見えた。
「無理に食べて体を悪くしたらいけない。作り直してくる」
お盆を下げようとする青年。
「あっそんなダメです!」
私はお盆を死守する。必死だったので、お盆ごと、青年の手を掴んでしまった。ごつごつと骨ばった大きな手。
「……っ」
触れた手から、青年がびくっと身体を震わせたのが伝わる。「あっ、ごめんなさい」と慌てて手を引っ込める私。いけない、セクハラに厳しい令和の世なら確実に訴えられる案件だ。
ちらっと青年の顔色を伺うと、頬がほんのり赤くなっている気がする。
(……ん?)
光の角度でそう見えただけかな?
「あの、少し独特な苦味があるだけで、あったかくて美味しいです。ありがとうございます」
一口、二口、続けて口に運んで見せる。これは強がりじゃない。お腹がぽかぽかして、空っぽだった胃に栄養が染み渡るようだ。
「ご馳走様」をするまで、青年は隣で私の体調を見守ってくれた。そこで初めて、ずっと青年の名前を聞きそびれていたことに気がつく。
尋ねると、少しの間の後、青年が口を開いた。
「僕は……エルムという」
それは、春を告げる大樹の名前。なずなと同じ、春に花を咲かせる植物の名だった。