死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
 夕餉に並んだのは、きのこの炊き込みご飯と銀杏の茶碗蒸し。デザートは庭で採れたばかりの柿。

(居候が、こんなに豪華なものをいただいちゃっていいのかしら……?)

「これ、椎茸と鰹節のお出汁がきいてる……」

 ぷるんと滑らかな舌触りの茶碗蒸しは、芳しいお出汁の香りがたまらない。弱った胃腸に優しく染み渡っていく。

(わ、炊き込みご飯もおいしー)

 思わず笑みが溢れてしまう。
 
「気に入ってもらえただろうか……?」

 傍らで私の様子を伺っていたエルムさんが軽く首を傾げた。

「はいっ、とっても」

 見られてたのを忘れてた。どうしよう、ニヤニヤしながら食べて、お行儀悪かったかも。

「……それはよかった」

 エルムさんの声色はいつもより少し柔らかかった。

(ほっ……引かれてはいないみたい)


 彼があれから毎日用意してくれる食事は、どれも私の口に合った。最初の女郎花(おみなえし)入りお粥以降、謎に薬草が隠れているということもなく、オーソドックスなこの国の家庭料理を忠実に再現してくれている。きっとエルムさんは、わざわざこの国の食文化を調べて、口に合うように作ってくれているんだろう。

(どうしてこんなに親切にしてくれるのかな……?)

 デザートの柿を頬張りながら、傍らのエルムさんを見つめるけれど、その無表情からはやっぱりなにも読み取れそうにないのだった。
 
*

 エルムさんのお手製の食事のお陰か、私は日に日に体調を回復させていった。
 療養当初と比べ幾分か視野が広がったある時、ひとつ気付いたことがある。それは、エルムさんがなんらかの病気を抱えていること。そしてその体調不良を私に隠そうとしていること。

 外で薪割りをしている今も、エルムさんは時折苦しそうな咳をしている。小屋の中まで響かないよう、必死で堪えているような、くぐもった咳。それは一度や二度じゃない。時には、えずきのような咳も混ざった。
 
(あの咳……なんかちょっと普通じゃない)

 思いつくのは、あの新撰組・沖田総司も苦しんだという結核だ。もし結核患者ならば、過去に先代の巫女が治療を成功させたと聞いたことがある。

 ——そうだ。これまで親切にしてもらったお礼として、癒しの力を使えば、治してあげられるかもしれない……。


(力を使えば、きっとまた良いように利用される)

(あの人も、親切にして油断させて、私を罠に嵌める気だ)

(もう金輪際、他人を信じるべきじゃない)
 

「……っ」

 また、だ。

 頭の中で勝手に声(・)が響く。私は大きく頭を振って、その声を追い出した。
 このまま頭の中の声に心を占拠されてしまうのではないかという妄想が、むくむくと大きくなっていく。

(ううん……きっと暇だから悪いことを考えてしまうんだ!)
 
 両頬をセルフ平手打ちしてみる。

 そうだ——幸い、体調も落ち着いてきたし、今日は小屋の外に出てみるのはどうだろう。窓から見える小屋の周りは山林。林の中を歩くのはきっといい気分転換になりそうだ。

(よーし! いいお天気だし、出かけてみよう!)

 ちょっとくらいなら大丈夫よね、と私はエルムさんに声もかけずに、そうっと小屋を出る。

 この気まぐれの外出が思わぬ危機を招くことになろうとは、この時の私は想像もしていなかった。
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