死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

ハルニレの独白

「……なずな。大人になったら、絶対に君を迎えにくる。だからその時は——僕の妻になってほしい」

「ありがとう。ハルニレのこと待ってるわ。だからハルニレ。その日までどうか元気で、上を向いて生きてね。なずなさんとの約束よ」


(あの時……子ども扱いだったな)

 彼女との別れ際を思い出すと、いつも悔しくなる。自分がせめてもう少し大人だったなら……。詮無いことを考える。


 
 僕がなずなの元を離れ、行商団に戻ったあと。
 行商団では、一部の大人達による利益の独占が続いた。いわれもない差別を受ける「異邦人」の生活に余裕はない。とりわけ僕達のような子どもは、現地人からだけではなく、同胞からも労働力を搾取される都合のいい消耗品だった。

 転機は十六歳。僕は生来所属した行商団を抜けることに成功する。なずなに教わったこの国の言葉と文化の知識を糧に、現地人相手に小銭稼ぎで細々と翻訳を請け負っているうち、縁あってとある庄家の専属通訳として職を得ることが出来たんだ。


 そして十八歳の春、僕はなずなとの約束を果たすべく、庄家の仕事に暇乞いをし、あの村へ向かった。——彼女のいる、神巫(かんなぎ)村へ。

 七年ぶりの神巫村は記憶の中と変わっていなかった。村人達から向けられる、奇異なものを見る目も。
 けれど、そんなことが気にならないくらい、僕の気持ちは浮足立っていた。自然と足早になる。一刻も早く彼女の笑顔が見たかった。

(なずな……会いたい……!)
 
 でも、七年前に親切にしてくれた奉公人のトキさんは、僕の姿を見るなり表情を曇らせた。
 その時点で、嫌な予感はしたけれど——。
 


「……嘘だ……!」

 伝えられたのは、彼女が「妖術使い」として水没の儀で処刑されたという残酷な事実。目の前が真っ暗になる。

(なずながこの世界から失われていたのに気付かず、七年ものうのうと暮らしていたというのか、僕は……)

 ——君を守ると誓ったのに。一人で水底に沈む恐怖はいかほどのものだったか。それも、僕がこの村を離れてひと月も経たないうちに起こった話だ。不甲斐なさで体が震える。
< 36 / 47 >

この作品をシェア

pagetop