死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「あなた達は……彼女が断罪されるのを、指を銜えて見ていたということですか」
気がつくと僕はトキさんに詰め寄っていた。トキさんは気まずそうに視線を逸らす。
「庇い立てした者は同罪だと旦那様に脅され、私たち奉公人にはどうすることもできず……」
トキさんの瞳から深い葛藤を感じ取る。七年という歳月以上に、彼女は歳を取ったように見えた。
「……っ、しかし、あなた達はなずなをあんなに……」
(いや……よせ)
この人を責めても仕方ない。奥歯を強く噛みしめ、僕は言葉を呑み込んだ。
「あの……ツルさんは?」
もう一人の恩人の名を出すと、トキさんは「ああ」と力ない声で言った。
「彼女は旦那様に反発し、辞めました。当然のことです。私達は、幼い頃からなずな様のお傍にいましたから……」
トキさんの声色に苦いものが混ざった。
「私も何度ここを辞めてやろうと思ったことか。ですが、私には奥様への御恩があります」
矢継ぎ早にトキさんが語る。彼女は、本音を吐き出す相手に飢えていたのだろう。ここ何年も。それがわかったから、僕はなにも口を挟まなかった。
「奥様は、なずな様がお亡くなりになって以降、すっかり病みついてしまわれています。なずな様があのような最期を迎えたのは、自分の力が足りなかったからだと、すっかりご自身を責めておられて……」
「……」
亡くなった後でいくら悔いたとて、遅いのではないか。怒りに任せて毒付きそうになるけれど、それを言うなら僕も同罪だ。
俯く僕に、トキさんが改めて声に親しみを込めた。
「ハルニレ坊ちゃん……いえ、もう坊ちゃんという歳でもないわね。本当に立派になって。ツルさんもあなたに会いたがっていたのに、こんなことになってしまって残念ですよ」
そうだ……。この人は、元来とても優しい女性だった。異邦人である僕に奉公人の寝床を分けることを厭わないほどに。彼女が寂しげに微笑む。
「ハルニレさん、よかったら、なずな様に会っていってあげてください。泉のほとりに小さなお墓がありますから。と言っても、ご遺体は泉に沈められたままで、お墓にはお骨すらないのですけれど……」
——君のいない世界など何の価値もない。
『水没の儀』が行われたという泉は、人の姿はおろか、鳥の声さえ聞こえない侘しい場所だった。水面に手向けた花が、静かに飲み込まれていく。
(こんなところで……彼女は七年も……)
彼女に「妖術使い」の嫌疑がかけられた要因の一つは、僕を——異邦人を庇ったせいであることは想像に容易かった。
僕のせいだ……。
君のそばに行けるのなら、この身を投げ出してしまおうか。
いや……七年前、僕は。
必ず迎えにいくと約束をした……。
——何でもいい、何か方法があるはずだ。
この身を投げるとしたら、何も方法がないとわかった後でいい。なずなにもう一度会うこと。それを叶えるためならば、この時の僕は神様にだって引導を渡せる気がしたんだ。