死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
夜明け前。窓の外が白みはじめ、空は次第に透き通った蒼に染まる。
「ハルニレ……! ハルニレ……っ!」
ぐったりする彼にいくら呼びかけても反応がない。胸はわずかに上下しているけれど、どんどん冷たくなっていく身体と、弱々しい脈が私を不安にさせる。このまま目を覚さないなんてこと、ないよね……?
生気を失った青白い頬に手を当てる。力なく閉じられた瞼に恐怖を覚えた。ハルニレが死んでしまうなんて絶対に嫌だ。
「っ……ハルニレ……」
(……駄目! 取り乱してどうするの私!)
パニックになりかけた自分自身に、セルフ平手打ちをする。——そうだ、私には癒しの力がある。
(……大丈夫、やれる!)
これが本当に「禁忌の秘術」の代償とするならば、私に助けることができるかわからないけれど、何もしないよりは絶対にましだ。
(……こんな癒しの力なんて、持っていてもしょうがないって思ってた)
力に驕り、他人なんか助けようとしたから、私は騙されて利用されて、あの不幸な結末を招いた。「あんな力、気味が悪い」と悪し様に言う人もいた。
私は、息も絶え絶えのハルニレを腕の中に抱きかかえた。なりふり構わず両手をハルニレの胸に当てる。
今の私にはもう迷いはなかった。
ハルニレを絶対に死なせたくない。
ハルニレへと翳した手に意識を集中させると、私の胸の内側から温かな力が迸るように溢れていく。これまでとは比べ物にならない、眩いばかりの温かな光が灯った。
(……絶対に助けてみせる)
体力が限界を超えるのも構わず、ありったけの力を注ぎ込む。ハルニレの削られていく命を、力づくで繋ぎ止める……! 目も開けていられないくらいの輝きの中で、私の胸の中でふっと腑に落ちる感覚があった。
——ああそっか。この力は、この時のためにあったんだ。
ハルニレのために力を使うことが、私が生まれてきた理由だったんだ。
そう思うと、目の前にかかっていたもやのような薄黒いものが、さあっと晴れていくようだった。
身体から力が抜けていく代わりに、胸の中は不思議と安心感に満ちていく。
光の中で生気を失っていたハルニレの青白い顔に朱が差していく。その胸に耳を当てると、心臓の鼓動が力強く伝わった。
「よかった……」
安心感と心地よい疲労感が私を呑み込む。朝の光に包まれて、私はそのまま溶けるような眠りに落ちていく。
眠りに落ちる直前、ふと考えがよぎった。風前の灯火だったハルニレの命はいま無事に繋がれたけれど——。これが「禁忌の秘術」の代償なら彼を救うための方法は……。
思い立った一つの可能性が私に希望をもたらした。