死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
その朝は今年初めての雪が降って、すっかり体調が回復した私は、庭で雪うさぎの制作に夢中になっていた。
「ハルニレー! ねえ、せっかく雪が積もってるのよ。こっちに来て、一緒に遊ぼうよ!」
「なずな、僕はもうそんな子供じゃないんだが……雪なんてそんなに珍しくもないし」
一年ぶりの雪にはしゃぐ私だったが、ハルニレはなんとも素っ気ない。
「昔はあんなに可愛かったのに、すっかり冷めた大人になっちゃって……」
「別に、昔からこうだと思うけどな……」
文句を言いながらも、しぶしぶ履物を変えて外に出てきてくれるハルニレは、やっぱりなんだかんだで私に甘かった。
「……それは?」
ハルニレの視線が、私の手の中の小さな雪玉に向けられた。
「雪うさぎよ、ほら!」
私は縁側を指差す。そこには、先に制作済みの雪うさぎが一匹ちょこんと座っていた。
「仲間を増やそうと思って。一匹じゃ寂しいものね」
「……貸して」
差し出された手のひらに雪玉を乗せると、それはハルニレの手によってすべすべと滑らかな雪うさぎに代わる。耳は山椒の葉、紅い瞳は南天の実だ。ハルニレの雪うさぎと並べると、私のが心持ち間の抜けた個体に見えてくるのが微妙に悔しい。
「ハルニレって器用よね」
「普通だと思うが……」
「思えば、文字の習得も恐ろしく早かったし、そういえば喧嘩も強かったし……」
「まあ、あれは……僕達異国人の場合、身を守る術を持たないと危険が多いからかな」
別にたいしたことじゃない、と無感情に言い捨てる彼の横顔は心なしか少し嬉しそうである。
非現実的な一面の雪景色。あまりに見事に積もっていると、そのまっさらな雪の上を滅茶苦茶に踏み荒らしたくなるのが人の性。私も例に違わず、草履の足で雪の上へ踏み込んだ。足跡がひとつ、ふたつ、白の絨毯の上に刻まれていく。
解放感に、私は足早になる。身体は軽く駆け、このまま羽が生えて雪と空の間の境界線に溶けていってしまいそうな錯覚を覚えたが、勿論それはただの錯覚である。不意に足が雪にとられ、私はあえなく雪の上に膝をついた。
「冷たい!」
「……何やってるの?」
ハルニレがすぐに駆け寄ってきて、手を差し出してきた。ふっ、と息を吐くような笑みが漏れたのを私は見逃さない。
「もー、笑わないでよ。私、あんまり運動神経がよくないのよ。スキーだって苦手だし……」
「何だかわからないが……濡れたままだと風邪をひく。もう中に入ったら?」
名残惜しさを感じ、私は縁側に座って雪景色を眺めた。隣にハルニレの体温を感じる。彼もまた、視線をぼんやりと雪の上に放っていた。
ふいに、ハルニレの呟く声が雪景色に響いた。
「……明日」
「ん?」
ハルニレは、白銀の景色を見ている。
「明日、君をもとの時空へ返す」
「……うん」
私は、ハルニレの肩に体重を預けた。
「ありがとう……ハルニレ」