死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
穏やかな日々
「トキさん! ツルさーん!」
廊下に向かって呼びかけると、二人の女性が、それぞれ仕事の手を止めて顔を出す。小柄でふくよかなトキさんと、背が高く細身のツルさん。どちらも私の家に古くから仕える奉公人で、私を特に可愛がってくれている二人だ。
「一体どうしたんです、なずな様」
「ちょっと手を貸してもらえないかな?」
目線でハルニレのことを促すと、二人は怪訝そうに目を見合わせた。
「……その子は?」
「訳あって、しばらく面倒を見ることになったの」
さらりと言い放った私に、背の高いツルさんの方が、すかさずツッコミを入れた。
「って、異邦人じゃないの。なずな様ったら、またとんでもないものを拾ってきて! 悪魔になんて関わって、祟られても私は知りませんよ」
「ツル、そんな言い方はないでしょ。なずな様のお客様よ」
トキさんがおっとりと制止する。ナイスです、トキさん。私は、ハルニレをふたりの前にぐいと押し出した。
「この子、ハルニレっていうの。ハルニレ、こっちは使用人のトキさんとツルさん。こっちの優しそうなトキさんはお料理が上手で、背の高いツルさんはこう見えてとっても面倒見がいいんだから」
「……」
ハルニレは、私の袖を引っ張り、不安そうな目をこちらに向けるばかり。
ツルさんが、はあ、と大きなため息をついてから、私の手元に視線をやった。
「——で? お櫃を抱えて、何をなさろうとしてるんです?」
「よくぞ聞いてくれたわ。これはね、おむすびを作るの! あと、何か温かいものも作りたいんだ」
「わかりましたよ。仕方ないわね。ちょうど手も空いたところだし、手伝いますよ」
「さっすがツルさん、話がわかる!」
トキさんはというと、すでに竈門に火を入れている。
「——その前に、この汚い坊やを、お風呂に入れたほうがいいわね。ノミが屋敷内に放たれるのはごめんだわよ」
「もうっ、ツルさん!」
「冗談よ」
ツルさんの口が悪いのは日常茶飯事だが、悪意はないとわかっているから、私はそれ以上言及しない。
「でも確かに、ご飯の前に綺麗にしないとね」
渦中のハルニレは、どこまでこちらの会話を理解できているのか、きょとんとしている。
「じゃあ、この汚い子猫ちゃんはあたしにまかせて、なずな様はトキさんとお食事の準備を」
ツルさんが、腕まくりをする。
「わかった」
私は頷き、おむすび作りに参戦した。
廊下に向かって呼びかけると、二人の女性が、それぞれ仕事の手を止めて顔を出す。小柄でふくよかなトキさんと、背が高く細身のツルさん。どちらも私の家に古くから仕える奉公人で、私を特に可愛がってくれている二人だ。
「一体どうしたんです、なずな様」
「ちょっと手を貸してもらえないかな?」
目線でハルニレのことを促すと、二人は怪訝そうに目を見合わせた。
「……その子は?」
「訳あって、しばらく面倒を見ることになったの」
さらりと言い放った私に、背の高いツルさんの方が、すかさずツッコミを入れた。
「って、異邦人じゃないの。なずな様ったら、またとんでもないものを拾ってきて! 悪魔になんて関わって、祟られても私は知りませんよ」
「ツル、そんな言い方はないでしょ。なずな様のお客様よ」
トキさんがおっとりと制止する。ナイスです、トキさん。私は、ハルニレをふたりの前にぐいと押し出した。
「この子、ハルニレっていうの。ハルニレ、こっちは使用人のトキさんとツルさん。こっちの優しそうなトキさんはお料理が上手で、背の高いツルさんはこう見えてとっても面倒見がいいんだから」
「……」
ハルニレは、私の袖を引っ張り、不安そうな目をこちらに向けるばかり。
ツルさんが、はあ、と大きなため息をついてから、私の手元に視線をやった。
「——で? お櫃を抱えて、何をなさろうとしてるんです?」
「よくぞ聞いてくれたわ。これはね、おむすびを作るの! あと、何か温かいものも作りたいんだ」
「わかりましたよ。仕方ないわね。ちょうど手も空いたところだし、手伝いますよ」
「さっすがツルさん、話がわかる!」
トキさんはというと、すでに竈門に火を入れている。
「——その前に、この汚い坊やを、お風呂に入れたほうがいいわね。ノミが屋敷内に放たれるのはごめんだわよ」
「もうっ、ツルさん!」
「冗談よ」
ツルさんの口が悪いのは日常茶飯事だが、悪意はないとわかっているから、私はそれ以上言及しない。
「でも確かに、ご飯の前に綺麗にしないとね」
渦中のハルニレは、どこまでこちらの会話を理解できているのか、きょとんとしている。
「じゃあ、この汚い子猫ちゃんはあたしにまかせて、なずな様はトキさんとお食事の準備を」
ツルさんが、腕まくりをする。
「わかった」
私は頷き、おむすび作りに参戦した。