死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「じゃーん、見て! 見違えるでしょ!」

 数分後、ツルさんに伴われて戻ってきたハルニレは、まるで別の子供だった。
 サラサラの金髪、白い肌。長すぎた前髪は、ツルさんによって整えられている。着物は、押し入れに眠っていた古着を引っ張り出してきたようだ。大人用らしく、サイズが合っていないけど、ダボダボ感がなんとも可愛らしい。

「磨けばもっと光るわよこの子。きっととんでもない美男美女から産まれたんだわ」

「そういえば、ハルニレ、お父さんとお母さんは?」

「……」
 ハルニレは首を傾ける。
「……わから、ない。気づいた時……もういない」

「行商団の大人達と一緒にこの村に来たんだよね? 行商団の人に育てられたの?」

「ああ、先月から村に来てる行商団ですね」
「海外の珍しい調味料、買いに行きたいわね」
 トキさんとツルさんが後ろで茶々を入れる。
 
 ハルニレが滔々と口を開いた。

「……行商団の、あの人達、ぼくを買った。だから僕……はたらく。それだけ」
「そっか……」

 思った以上に重い境遇の彼へ掛ける言葉を失っていると、ツルさんが手を叩く。

「さあさあ、お話はあとあと! お味噌汁があったまりましたよ」
「ツルさん、ありがとう」
「ほら、坊やもどうぞ、冷めないうちに召し上がれ。なずな様と一緒に作ったおにぎりと、自家製のお漬物もあるんだから」
「……」

 箸を渡されたハルニレは、固まっている。あ、そっか。異邦人はお箸を使う文化がないのね。ここは私の出番である。

「ハルニレ、お箸はこう! 上の箸と下の箸の間に、こうやって中指を軽く挟んで……」
「指……挟、む?」

 私と箸を見比べ、ハルニレの眉がハの字になる。

「貸してごらん」
「あ……」

 ハルニレを後ろから抱き込むように、彼の右手に私の右手を添える。まだまだ子供——多分小学校高学年くらいだと思うけど、手の大きさはすでに私とそんなに変わらない。背は私の方が十センチは高いのに、やっぱり男の子って感じだ。

「こうやって持つの。この指ふたつで上の箸を押さえて——こう。ね、使えたでしょ。慣れたら簡単だよ」
「……」
「ん? どうかした」
「な、なんでも……ない」

 ハルニレは何故か下を向いてしまって、背中にいる私からはつむじしか見えない。トキさんとツルさんが同時にぷっと吹き出した。

「あらあら、坊ちゃんったら、顔を赤くして。なずな様があんまり近いから、照れちゃったんじゃないですか」
「あらあら〜。このくらいの年の子は、もう男の子よねえ〜」
 
「……」

 がばっ、と音がするくらいの勢いで、ハルニレが私から離れた。

(……あら、ハルニレ? お、怒ってる?)

「やだ、二人とも! ハルニレはまだ子どもよ、そういうのじゃないわ。たぶん、私が汗臭かったんじゃないかな? 朝のお掃除で結構汗かいちゃったし!」
「そうですかねえ~?」
 ツルさん達がニマニマと笑っている。
「……」
 なんでかしら、ハルニレの機嫌はさっきより悪くなっている気がした。

 そんな感じで、ハルニレと過ごすかけがえない日々が、幕を開けたのである。
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