イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
閉館を知らせる控えめな校内放送が流れた。

けれどふたりとも、すぐには立ち上がれなかった。
今ここで終わるのがもったいなくて、もう少しだけこの時間にいたかった。

湊がゆっくり立ち上がる。
紬の席の横まで来て、静かに見下ろした。

「白石」

「……うん」

「こっち向いて」

それだけで、心臓が苦しいくらい跳ねる。

紬は椅子に座ったまま、そっと顔を上げた。
近い。
こんなに近くで見る湊の目は、いつもより少しだけやわらかい。

「緊張してる」

思わずこぼすと、湊が小さく笑う。

「俺もしてる」

その言葉が最後の安心になった。

湊の指先が、そっと紬の頬に触れる。
やさしい。
壊れものに触るみたいだった。

「逃げないで」

低く落ちた声に、紬は小さくうなずく。

逃げるわけがない。
ずっと、この瞬間を待っていた。

次の瞬間、湊が静かに身をかがめる。

触れた唇は、思っていたよりずっとやわらかかった。
一瞬だけなのに、胸の奥まで熱が広がっていく。
やさしくて、大事にされているのがわかるキスだった。

離れたあとも、紬はしばらく息ができなかった。

目を閉じたまま、頬が熱い。
心臓がうるさい。
でも、こわくはなかった。
ただ、どうしようもなく幸せだった。

「……白石」

湊の声も、少しだけかすれていた。

紬がゆっくり目を開けると、彼も少し照れたみたいに視線を揺らしている。
その表情がめずらしくて、愛しくて、紬はふっと笑った。

「いま笑った」

「だって、朝比奈くんも緊張してる顔してる」

「してた」

「してたんだ」

「白石相手だから」

その返事がうれしすぎて、また泣きそうになる。

すると湊が、今度はためらわずに紬の手を握った。

「これからも、ちゃんと伝える」

紬はうなずく。

「私も」

「不安にさせたら、ごめんじゃなくて話す」

「うん」

「白石も、ひとりで我慢しないで」

その約束は、告白より静かで、でも同じくらい大切だった。
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