君の涙は春になる。
図書室を出るころには、空は茜色に染まっていた。
下駄箱までの廊下を並んで歩く。
肩が触れそうで触れない距離が、くすぐったい。

「白石」

「ん?」

「今日、駅まで一緒に帰る?」

紬は少しだけ笑った。

「また、ひとりで帰りたくない顔してる?」

「してる」

「もう」

文句を言いながらも、嫌ではなかった。
むしろ、うれしかった。

校門を出ると、雨は降っていなかった。
昨日までの濡れた空気が薄れて、少しひんやりした風が吹いている。

ふたりで歩く帰り道は、思ったより自然だった。
好きな本の話。
苦手な教科の話。
給食のころに好きだったメニューの話。
そんな、どうでもいいような話ばかりした。

でも紬には、それがたまらなく大切に思えた。
悲しみの話をしなくてもいい。
泣きたいことを打ち明けなくてもいい。
ただ隣を歩いて、くだらない話で少し笑える。
それだけで救われる日があるのだと、初めて知った。

駅の手前の横断歩道で信号を待っていたとき、紬は向かいのガラスに映る自分たちを見た。
制服姿の男女が並んで立っている。
その光景が、自分にはまだ少し信じられなかった。

「どうしたの」

「え?」

「なんか見てた」

「別に」

またごまかすと、湊はくすっと笑う。

「白石、すぐ隠す」

「朝比奈くんだってでしょ」

「そうかも」

そんなふうに認めるのが、少し意外だった。

青になった信号を渡る。
駅の階段が近づく。
この時間が終わってしまうことが、急に惜しくなった。

もっと話していたい。
もう少しだけ一緒にいたい。

そんな気持ちが芽生えた瞬間、紬は自分で自分に驚いた。
たった数日で、こんなふうに誰かを求めるなんて。

けれど、恋はきっと、そういうものなのかもしれない。
大きな音を立てずに始まる。
気づいたときには、もう胸の奥に根を張っている。

駅に着くと、湊が足を止めた。

「じゃあ、また明日」

「うん」

本当は、そこで終わるはずだった。
けれど紬は、気づけば彼の制服の袖をほんの少しだけつかんでいた。
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