君の涙は春になる。
紬はごまかすように本へ目を落とした。
けれど文字は少しも頭に入ってこない。

向かいから、かすかに笑う気配がした。

「赤い」

「うるさい」

「怒る元気あるなら安心」

そんな会話さえ、うれしかった。

図書室を出たときには、外は小雨になっていた。
湊が傘を開いて、紬のほうを見た。
何も言わないのに、その動きだけで一緒に入るのが当たり前みたいに思える。

紬は自分の傘を鞄から出しかけて、やめた。

「……入っていい?」

「最初からそのつもり」

また少しだけ、悔しい。
でも、うれしい。

肩が触れそうな距離で歩く帰り道。
雨音が近くて、外の世界が少し遠い。
傘の下だけが、小さな別の場所みたいだった。

「白石」

「なに」

「今日、眠そう」

「昨日ちょっと寝つけなくて」

「なんで」

答えるのを迷っていると、湊が静かに続けた。

「俺のこと考えてたとか」

紬は思わず立ち止まりそうになった。

「ち、違う」

「そっか」

「……少しは、考えたけど」

言ってしまってから、もう消えたいくらい恥ずかしくなった。
なのに湊は、からかうでもなく、ほんの少し目を細めただけだった。

「俺も」

雨音にまぎれそうなほど小さな声だった。
けれど紬には、はっきり聞こえた。

俺も。
その二文字だけで、胸がいっぱいになる。
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