君の涙は春になる。
駅に向かう途中、公園の前を通る。
雨に濡れたブランコが揺れていた。
誰もいない遊具の寂しさが、なぜか今日はいつもより目につく。

ふいに湊が足を止めた。

「少しだけ、寄る?」

紬はうなずいた。

屋根のあるベンチに並んで座る。
風が雨を運んできて、足元のコンクリートに細かな模様を作っていた。

しばらく無言だった。
でも、その沈黙は苦しくない。
湊といると、話さない時間までやさしい。

「白石はさ」

「うん」

「この先、なりたいものある?」

突然の質問に、紬は少し考えた。

「まだ、はっきりはない。でも、人の気持ちに寄り添える仕事がいいなって思う」

「似合う」

「そうかな」

「うん。白石、ちゃんと痛いこと知ってるから」

その言葉に、紬は息をのんだ。

痛いことを知っている。
それはたぶん、やさしい褒め言葉なのに、少しだけ泣きたくなる。
失ったものまで見透かされた気がしたからだ。

「朝比奈くんは」

同じように問い返すと、湊は少しだけ黙った。

「前はあった」

前は。
その言葉がひっかかった。

「今はないの」

「なくした、って言ったほうが近いかも」

雨が少し強くなる。
ベンチの前に落ちるしずくを見つめながら、湊はそれ以上続けなかった。
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