君の涙は春になる。
紬も、無理には聞けなかった。

聞いてしまえば、この静かな時間が壊れてしまう気がした。
まだ踏み込んではいけない場所が、彼の中にはある。
そうわかってしまったからだ。

それでも、少しだけでも支えになりたかった。

「なくしたものって」

紬は慎重に言葉を選ぶ。

「戻らなくても、新しくできることもあるよ」

湊がゆっくり紬を見る。

「たとえば?」

「……帰り道が楽しみになるとか」

言いながら、顔が熱くなる。
遠回しすぎて、でも遠回しでも十分すぎるくらい気持ちがこもっていた。

湊はしばらく何も言わなかった。
その沈黙が長く感じられて、紬は失敗したかもしれないと思う。

けれど次の瞬間、湊はかすかに笑った。

「それは、もうできてる」

紬はもう何も言えなかった。

雨の日の公園。
夕方の薄暗い光。
濡れた風のにおい。
その全部が、胸に残る。

きっとこの瞬間を、ずっと忘れないと思った。
< 18 / 21 >

この作品をシェア

pagetop