君の涙は春になる。
「傘、忘れたの」

「持ってる」

「じゃあ、なんで立ってるの」

「朝比奈くんには関係ないでしょ」

少しきつい言い方になった。
けれど湊は気を悪くした様子もなく、ただ雨の向こうを見た。

「そうだね」

それだけ言って、彼は紬の隣に並んだ。

意味がわからなかった。
先に帰ればいいのに。
なのに湊は動かない。
雨音だけがふたりの間に落ちる。

「……帰らないの」

さっきと同じ言葉を、今度は紬が返す。
すると湊はほんの少しだけ口元をゆるめた。

「帰っても、今日は誰もいないから」

その言い方が、少しだけ寂しく聞こえた。

紬は何も言えなくなった。
自分だけが寂しいわけじゃない。
そんな当たり前のことを、急に思い知らされた気がしたからだ。

しばらくして、湊は自分の傘を開いた。
黒い傘だった。
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