イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
部屋の中は静かで、生活の音が丁寧に積み重なった空気がした。
派手なものは何もない。
でも、テーブルの上には飲みかけの麦茶と薬の箱があり、ソファには畳まれた洗濯物が置かれている。
誰かの世話をするための時間が、そこにそのまま見えていた。

「これ、よかったら」

紬が袋を差し出すと、湊は少し目を見開いた。

「買ってきてくれたの」

「弟くん、まだ本調子じゃないかなって」

横で澪がのぞきこむ。

「ゼリーだ」

「食べられそう?」

「食べる」

元気よく答える澪に、湊が少しだけ笑った。
その笑顔を見て、紬の胸があたたかくなる。

「ありがと。ほんと助かる」

「ううん」

「白石、座って」

そう言われて、紬は小さくうなずいた。

湊がお皿とスプーンを用意しているあいだ、澪が紬の隣にちょこんと座る。
近くで見ると、ますます似ていた。
けれど湊より表情が素直で、感情がそのまま顔に出る。

「白石さん」

「なに?」

「みなと、学校だとちゃんとしてる?」

紬は思わず笑いそうになった。

「ちゃんとしてるよ」

「家でもちゃんとしてる。ちゃんとしすぎ」

その言い方に、紬は少しだけ引っかかった。

ちゃんとしすぎ。
幼い弟がそう思うくらい、湊は家で頑張っているのかもしれない。

「澪」

キッチンから湊の声がする。

「余計なこと言うな」

「ほんとのことだもん」

そう返す澪に、紬は困ったように笑った。
けれど心のどこかでは、その言葉を強く受け止めていた。

ちゃんとしすぎる。
たぶんそれは、湊が自分を後回しにしているということだ。
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