君の涙は春になる。
「白石」

不意に名前を呼ばれて、紬は顔を上げた。

「何」

「泣きたいなら、我慢しなくていいと思う」

足が止まりそうになった。

どうして。
どうして、この人はそんなことを言うのだろう。

「……泣いてない」

「うん。でも、泣きそう」

紬は唇をかんだ。
やめてほしかった。
そんなふうに、やさしく見抜かないでほしかった。
ずっと平気なふりをしてきたのに。
大丈夫な顔をして、ちゃんと笑って、迷惑をかけないようにしてきたのに。

なのに湊の声は、簡単にその壁を壊してしまう。

「今日、お母さんの命日だった」

気づいたときには、口にしていた。

誰にも言うつもりなんてなかった。
父にも、友達にも、言えなかったのに。

湊は驚いた顔をしなかった。
ただ静かに、そうなんだ、と言った。

「朝、仏壇に手を合わせてから来たの。平気だと思ってた。でも……だめだった」

声が震える。
情けない。
こんなところで泣くなんて。

そう思った瞬間、視界がにじんだ。
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